少しお利口さんになりました
月一回、福岡市中央区六本松にあるクリニックに検査と薬の処方のために通っている。自宅から約6キロを散歩がてら歩いている。なぜ歩くのかって? それは学生時代から身に付いた〝付け焼き刃〟癖が改まらないからだ。ただ、テストの点数と違うのはクリニックで検査する血糖値を下げるのが目的だ。
私はストレスがたまると、せっせと炭水化物を過剰摂取してしまう。そんな生活ぶりを知るクリニックの院長は「大盛りを頼める食堂や弁当屋さんはあるのに、糖尿病患者向けの糖質を少なくした食堂やお弁当屋さんはないんですよね〜」といつもぼやいていた。ところが、だ。「糖質制限弁当を作ってくれる業者さんをみつけましたよ」と私の問診をしながら、院長はうれしそうに語った。
しかも、クリニック内に場所を提供しマージンをとるでもなく院長本人やスタッフがボランティアで弁当を販売しているという。私が訪れた日も、スタッフのお嬢さん(小4)が販売窓口に立っていた。ご飯の量を減らした分だけ食物繊維たっぷりのおかずがあった。心の中で「6キロも歩いておなかがすいているのに…」とつぶやきながらワンコイン(500円)を差し出した。食べてみると、おかずもたっぷりあり予想に反して私の食欲は満たされた。六本松界隈で評判を呼び、一日30個近く売れることがあるという。
ただ、距離的に毎日買いに行くわけにもいかず、ご飯の量を減らし食物繊維系の副菜を増やす努力を地道に続けていたらHbA1c(ヘモグロビン・エー・ワン・シー)が下がっていた。HbA1cは過去1〜2カ月の血糖値の平均値を示す数字だ。受験生が偏差値を気にするように、われら糖尿病患者は互いにHbA1cの数値を挨拶代わりに確認しあうことがある。少しだけお利口さんになった私の数値を見て、糖質制限弁当効果に気を良くした院長が、今度は糖尿病の人たちがサロンのように集えるカフェがあったらイイなぁと呟いた。
私のように生活習慣から発症する2型糖尿病があるが、自己免疫の病気でインスリンが出なくなる1型糖尿病を発症する人たちもいるのだそうだ。小児糖尿病なども1型になる。院長は言った。「1型の患者さんは本人もご家族も精神的、経済的に負担が大きく孤独になりがちなんです。岡ちゃん! そんなカフェで働きたくないですか?」と呟いた。この呟き、実現しがちなので正直怖い。
文・写真岡ちゃん
ぐらんざ世代の代弁者としてnoteなどで発信。
代筆屋業も開業しスピーチ原稿などの執筆や情報誌編集長としても奮闘中。