いつの日か巡礼を
高知県を二泊三日の日程で旅をしてきた。坂本龍馬ほか幕末の志士たちの銅像を眺めながら高知市内を歩きまわっていたら、散歩にうってつけの観光地を見つけた。標高146mの五台山の起伏を利用して作った約8ヘクタールもある県立牧野植物園だ。植物園の名前にもなっている牧野富太郎博士は、多数の新種植物を発見し命名もした「日本の植物学の父」とも称される偉人。旧制小学校中退だったが理学博士の学位まで取っている。
ここまで書くと「あー、あの人ね」とうなずく読者も多いはずだ。そう、今年4月から放映が始まったNHK連続テレビ小説「らんまん」のモデルでもある。今月号の表紙を飾っている俳優・神木隆之介さんが演じる天才植物学者・槙野万太郎のポスターや写真が空港を降りてから、いたるところで、まさに爛漫の言葉通りに飾られていた。
実は高知を訪れるまで牧野博士には少し反発心があった。高校時代の生物教師が東大卒で、牧野博士の薫陶を受けたらしく何かにつけ「旧制小学校中退の牧野先生みたいな努力が足らん」と説教した。おかげで牧野博士をモデルにしたと聞いてドラマを見る気がしなかった。ところが、博士ゆかりの植物園内をじっくりと歩きまわり、遊歩道沿いにあった説明書を読み、心を奪われた。「スエコザザ」とあり牧野博士を支え続けた妻・寿衛子さんに感謝して命名された植物と書かれていた。さらに展示館で数々の業績を読み、半世紀もの膨大な時間を経て、牧野博士の人柄と偉大さを思い知った。
植物園のそばには真言宗智山派の竹林寺という寺院があり、秘仏本尊の文殊菩薩を50年に一度御開帳するイベントが開かれていた。寺の開創1300年と弘法大師誕生1250年にもあたり文殊菩薩と行基像が公開され、偶然だったが立ち会うことができ貴重な体験をした。ふとコーナーを始めた初心にかえった。散歩術では身体的な活動だけでなく精神的な活動であることも書いていこうと考えていた。
高知では何人もの白衣、菅笠、金剛杖姿のお遍路さんを見た。私より年上の人たちが黙々と歩いている姿があった。竹林寺へ行った後、私も試しに太平洋を眺めながら歩いてみたが30分ほどで音を上げた。もっと散歩を続けて体力をつけてから、いつの日か巡礼をしてみたい。
文・写真 岡ちゃん
ぐらんざ世代の代弁者としてnoteなどで発信。
代筆屋業も開業しスピーチ原稿などの執筆や情報誌編集長としても奮闘中。