「指宿駅前店」
鹿児島県指宿市湊1-9-16
午前11時~午後3時、午後6時〜午後9時半(オーダーストップ) 不定休
かさね味850円
2016年、ニューヨークでのラーメンイベントで人気投票と売上杯数で1位を獲得。その名を知らしめた。翌年も優勝してニューヨークへの出店も果たす。麺屋二郎を語るときに、この成功は外すことはできない。ただ、代表の安間二郎さん(43)を取材してみると外ばかりを向いているわけではなかった。地元の鹿児島・指宿あってこその麺屋二郎なのである。
もともとはアパレル出身。ショップを開き、自分で洋服のデザインも手掛けていた。仕事は楽しい。だが、経営は楽ではない。転機は26歳の時に訪れる。「知人のラーメン店のオープンを手伝うことになって」。動きの良さを褒められ、「向いているかも」と考えた。
行動は早い。鹿児島市の人気店「くろいわ」に飛び込み、27歳で同市内に「TSUBAME」をオープンした。提供したのはあっさりとした鶏がらラーメン。評判はよかったものの、朝から深夜まで働きづめ。「このままでは体が壊れる」と、2010年に指宿の実家に戻って再出発したのが「麺屋二郎」の始まりである。
「洋服のデザインも、ラーメンづくりも、自分自身を表現する点で変わらない」と安間二郎さん
新天地では、子供の頃に食べていた味を目指した。使うのは豚骨と鶏がら。くろいわの作り方を参考に独自のアレンジを加え、改良を続けてきた。
創業以来1番人気という「かさね味」は、鹿児島らしさがありつつ、よりしょうゆがかったスープが特徴の一杯だ。「指宿はこのタイプが多かったんですよ」と安間さん。滋味なスープに揚げニンニクなどの香ばしさが重なる。鹿児島ではかん水なしの白っぽい柔麺を提供する老舗もある中、コシがある中太麺を合わせる。噛み込むほどに小麦の風味が広がり、喉触りも心地よい。
オープン当初、客足は伸び悩んでいたという。浮上のきっかけは自家製麺への切り替えだった。さまざまな小麦粉を試した。塩、水、かん水の量は0.5グラム単位で変えた。麺が良くなるにつれて、店も軌道に乗り始めた。
「こんな田舎のラーメン屋が。シンデレラストーリーでしょ」。2013年のキャナルシティ博多(福岡市)を皮切りに、神奈川・逗子を経てニューヨークに店を広げた。さらにラーメンショーなど各地のイベントにも積極的に参加してきた。その原動力の一つに「地元への貢献」がある。「福岡で食べたお客さんが本場を食べたいと指宿に来てくれたんです」。指宿は、鹿児島市から1時間ほどかかる。ハードルは高い。それでも麺屋二郎の一杯を求めて来てくれるのだ。
店舗展開はのれん分けやフランチャイジーに任せている。一方、指宿本店と指宿駅前店は直営にこだわり、安間さんが目配りをする。それは「100年続くご当地ラーメンになりたい」との思いからでもある。
地元の人が食べてくれないとご当地ラーメンとは言えない。「それは、つくるものではなく、つくられるもの」。小さい頃から親しんだ思い出の味こそが、ご当地ラーメンになると信じている。
鹿児島ラーメンの一つではなく、指宿ラーメンにしたい。目指すところは「指宿から世界へ」であり、「世界から指宿へ」でもある。
文・写真小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社出版担当デスク。
著書に「ラーメン記者、九州をすする!」。「CROSS FM URBAN DUSK」内で月1回ラーメンと音楽を語っている。ツイッターは@figment2K