漢方による治療のお話の前に、読者の皆さんは「快眠・快食・快便」という健康のバロメーターについてどう考えていますか。私のクリニックでは、初診時に症状についてだけでなく食事、運動、睡眠などの生活習慣についてお尋ねするようにしています。
生活習慣を改善するだけで倦怠感、不眠、肩こり、慢性頭痛、慢性腰痛、動悸、冷え性、イライラ、月経不順などの症状は軽くなったりなくなったりします。具体的には適度な運動をして、腹式呼吸を心がけ炭水化物や脂質の過剰摂取を控え腹6分目の食事をすることです。さらに幸せ感覚の先取りという前向きな心の持ち方を実践するように指導もします。
それを補う形で、漢方を処方しています。漢方はあくまで患者さんの自助努力をお手伝いするものです。西洋薬と併用しながら、漢方薬によって体全体のバランスを調整し症状の軽減を目指すことができます。
医学の進歩により、さまざまな病気に対する治療法は比較的安全で確実なものになっています。とはいえ、それでも西洋医学がカバーできていない領域があります。そのような時こそ漢方は力を発揮するのです。例えば頭痛です。西洋医学では消炎鎮痛剤などの冷やし薬で冷やして治療をします。しかし、これでは湿気や気圧の変化による頭痛や、アイスクリームを食べた時のような冷えによる頭痛は改善できません。
そのような際に漢方では逆に温めて痛みを取り除くという働きかけが可能です。西洋医学では対応できない、きめ細かな治療が望めることが漢方の魅力でもあるのです。
漢方を使った治療は時間がかかるというイメージを持つ方も多いようですが、江戸時代からおなかが痛い、頭が痛い、おなかを下したといった急性疾患の症状に使われてきた歴史があります。本来的には即効性が期待できる薬なのです。漢方が長期間服用することで慢性疾患に対応できるというのは、実は比較的最近になって発見された効能なのです。
漢方といえどもどのような病気にでも効くというものではありません。西洋薬と併用しながら適材適所で活用していく。そうすることで、漢方がより生かされるのではないでしょうか。
担当医
牧⻆内科クリニック
循環器内科
牧⻆ 和宏(まきずみ かずひろ)先生