日本テレビ開局65年記念舞台『魔界転生』
原作:山田風太郎(角川文庫刊)
演出:堤幸彦
脚本:マキノノゾミ
出演:上川隆也、溝端淳平、高岡早紀、藤本隆宏、浅野ゆう子、松平健ほか
◎10月6日(土)〜28日(日)博多座
◎11月3日(土祝)〜27日(火)明治座
◎12月9日(日)〜14日(金)梅田芸術劇場メインホール
島原の乱が生んだ2つの新遺産
今年は、島原の乱からちょうど380年の節目という。島原の乱と聞いて、このところの九州での大きな話題が思い当たる。長崎・島原と天草地方が「潜伏キリシタン関連遺産」として世界文化遺産に登録されることが内定したというニュースだ。
世界遺産群は、その後のキリシタン信徒らの厳しい信仰の歴史が評価されたものだが、その苦しい想いを物語として浄化させようと考えた人もいたようだ。忍法帖シリーズで人気を博した山田風太郎氏の『魔界転生』は、今回の舞台の原作でもある。天草四郎の無念を魔力に変えて復讐劇に仕立てたものだ。
『魔界転生』は『おぼろ忍法帖』として新聞に掲載されていたものを1967年(昭和42年)に単行本化。空前絶後の奇怪な物語として、山田ワールドを知らしめた。島原の乱で惨殺された天草四郎時貞が魔界の力を借りて蘇り、徳川幕府滅亡のため、宮本武蔵、柳生宗矩ら名だたる剣豪たちを黄泉の国から悪鬼へと転生させ、それを阻止せんと立ち向かう幕府方の柳生十兵衛らと死闘を繰り広げる。かつては千葉真一さんや佐藤浩市さんが柳生十兵衛として戦った。映画、舞台、漫画、アニメやゲームとあらゆるメディアで再現を繰り返してきた名作だ。今回の主役、柳生十兵衛役の上川隆也さんもかつて貪り読んだという大ファン。
「名だたる先輩方のプレッシャーがないといえばウソになりますが、気にしても仕方がないとも思います。僕というフィルターを通す以上『上川の柳生十兵衛』にしか仕立て様がありませんから」と、新生・十兵衛の誕生を明言した。
九州発の機運を東京、大阪へ
今回の公演は、島原の乱にもちなみ、九州からのスタートとなっており、10月の博多座から、11月は東京明治座、12月には大阪梅田芸術劇場へと駆け上がる、珍しい公演となっている。大いに盛り上げて送り出したいものだが、上川さんの博多の印象はどうなのだろう?
「実は、博多座の板に乗せていただくのは初めてなんです。が、1500名ものキャパのある小屋で、さまざまな形態の演目が行われる、全国でも珍しい劇場と諸先輩方から伺っていて、一体どんな風景が広がるのかと思うと、役者としてはそれだけで血のたぎる思いでいます。お客さんも熱く、博多の食べ物の美味しさはお墨付き。公演の期間内にどれだけ楽しめるか?と期待してもいます」また、歌舞伎ファンも多いぐらんざ読者にも、「魔界転生は一大スペクタクル作品ですが、歌舞伎や時代劇など現代劇とは違う世界観も寛容に受け入れてくださるお客様でしょうし、きっと楽しんでいただけると思います」とイチオシだ。
「島原の乱から380年目の節目に、世界遺産登録も決まり、今作も博多座からの開演。ここまで色々と揃うと何か機運のようなものを感じ、巡り合わせに思いを新たにします。ぜひ博多で箔を付けて、その勢いを東京、大阪へと持っていきたいと思っています」。
奇才、重鎮、好青年 顔ぶれも多彩に!
今作の目玉の一つに『ケイゾク』『トリック』など、摩訶不思議な世界観で知られる、堤幸彦さんの演出がある。中でもミステリアスな能力の登場人物がふんだんに出てくる『SPEC』で、上川さんとはすでにタッグを組んでおり、次はどんな手でドキドキさせてくれるのか、想像するだけでワクワクしてくる。
「堤さんは、テレビ演出の世界では、堤以前・堤以後という言葉を生んだくらいの奇才。こだわりはあっても、奇をてらっているわけではない。なのに予想もしない効果が凝らされていたり、思いもよらない空気感が加味されていたりと、堤マジックとでもいうようなものに仕上がるんです。演技をしている時にはわからなかった演出の意図が、カメラモニターを通して初めてわかったりすることもあります。今回カメラはありませんが、きっと舞台上にもそうした堤マジックが出現するんだろうと僕も楽しみです」と、上川さんも胸を躍らせる。
さらに、脇を固めるのは、溝端淳平さんを始め、高岡早紀さん、藤本隆宏さん、浅野ゆう子さん、松平健さんなど、多彩な顔ぶれ。「ないがしろに書かれる人がいない山田作品にマキノ・堤解釈がどう加わるか」。フライングや迫力ある殺陣シーンなど、想像力も勝手に暴走する展開については、「驚くとは思いますが、どんどん奇想を凝らして頂きたいです。前向きに皆と深くスクラムを組んで取り組むだけです。飽くまで喰らいついていきます(笑)」百戦錬磨の役者魂に、新たな炎が燃えあがったようだ。
最大の見どころ 柳生親子の相克は?
溝端淳平さん演じる天草四郎には「最高に色っぽい天草四郎をお見せします」と宣言した堤さん。最大のハイライトは柳生宗矩・十兵衛親子の死闘シーンという。難しそうなシーンだが上川さんは、「松平さん演じる柳生宗矩は十兵衛の師範であり父親。息子への想いと剣客としての矜恃。その複雑な思いから対峙する事になってしまう。熱く悲しい一騎打ちですが、そこは松平さんへの信頼を礎にしたいと思います。役者としての信頼感という意味では、松平さんとのタッグには、期待しかありません」とはいえ、隻眼で知られる十兵衛は一剣士として、悪鬼となった父・宗矩を切らなければならない。
「魔界衆の一味となった父親らに、十兵衛は一人の人間として立ち向かうことになるでしょう。生身の人間が困難と闘う、その悪戦苦闘を観客の皆さんと一緒に満喫したい」。役者として、人として、ブレない剣豪のような一面を垣間見たインタビューとなった。この続きを舞台で見るのが、本当に待ち遠しい。
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