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ハットをかざして 第183話 小沢昭一的話術

ハットをかざして 第183話 小沢昭一的話術


 日本人の精神には「云わぬが花」「一を聞いて十を知る」の察し合いの文化がある。されどもビジネスにおけるプレゼンテーションではそうはいかない。分かりやすく伝え、相手の理解と共感を頂かなくてはならない。一方的に我が意を喋っても御意を得るわけではない。

 人は論理よりも気分で動く生き物だ。気分や心を得るために、話術のけいこをしようと一念発起する。当時、夕刻のラジオ「小沢昭一的こころ」が人気を博していた。小沢の話術のみごとさ軽快さを憧憬していた。ある日、小沢先生が中洲の明治生命ホールで講演を行うとの情報が入った。チケットを入手し、馳せ参じる。ラジオの力かホールは満席である。舞台下手の司会者が「では、小沢昭一さんです。」と紹介した。お客さん全員、下手から小沢さんが現れるものと拍手を送るが、とんと出てこない。怪訝な間が続く。再び拍手を試みるもお出にならない。ふっと後方部が騒がしくなった。なんと小沢先生は客席最後方の真ん中の通路に立っておられた。ニコニコと、満面に笑みを湛え、左右のお客さんたちと握手をしながら徐々に舞台へと近寄り、左手の階段から登壇した。ゆっくりと中央の演台へ近寄る。さあ、第一声を発すると思いきや、おもむろにコップに水を注ぎ、ゆっくりと飲む。さあ、第一声とこちらも固唾をのむが、まだ発しない。莞爾として間をとる。やおら花瓶の花を一輪取り出し、背広の左胸のフラワーホールに差し入れた。や否やキッとホール全体のお客を見つめて、「小沢昭一でございます。」と見栄を切った。司会者の紹介から、ここに至るまで15分は経っていた。これが小沢流つかみかと感じ入った。

 演題は「日本の祭」。まず枕を始めた。旧制麻布中学途中から、海軍兵学校の予科に入り、昭和20年の春、佐世保の針生島へ入るために博多へやって来た。夜、博多駅で降りるとホームでは博多夜船が流れていた。祇園駅前の旅館に泊まる。「昭一少年16歳は、実にここで男になったのであります。博多は私の思い出の地でありまーす。」と高らかに唱える。鼻腔が開き、息がハフハフしている。

 やおら祭りの話に移る。青森のねぶたの華麗さを誉め、7年に1回の諏訪の御柱の勇壮さを褒め上げる。京都祇園の山鉾巡行中の車輪の大きさと辻回しの潔さを見事さを褒め、次に岸和田のだんじりの勇猛さを褒め上げる。調子はまさに「小沢昭一的こころ」の畳み込む講談調である。弁舌は時に強く、時にささやくように客の心を捉え、引き込んでいく。大海の波が押したり引いたり、この喋りを私は「大波小波法」と命名した。最後にご当地博多山笠のだんじりに劣らぬ勇壮さを褒めて話は終わったやに思えたが、「いろいろ日本にお祭りはございますが、どのお祭りも(ここで間をとって)、男と女のお祭りには敵いません。」と落ちをつけて終わった。

 最後にいつものように胸からハーモニカを取りだし、♪博多夜船を吹きながら下手に消えていった。話術のコツは「つかみ」と「枕」と「オチ」、私は小沢的「大波小波法」を鍛錬することとした。


中洲次郎=文
text:Jiro Nakasu
昭和23年、大分県中津市生まれ。
博報堂OB。書評&映画評家、コラムニスト、エッセイスト。
近著「伊藤野枝と代準介」(矢野寛治・弦書房)
『反戦映画からの声』(矢野寛治・弦書房)
新刊『団塊ボーイの東京』(矢野寛治・弦書房)

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やましたやすよし=イラスト
Illustration:Yasuyoshi Yamashita

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