脳機能が低下して発症する誤嚥性肺炎
日本人の3大死亡原因は長く「がん」「心臓病」「脳卒中」でした。ところが2011年に「肺炎」が脳卒中を抜いて死亡原因3位になりました。しかも肺炎による死亡者数の96%が65歳以上。その多くが「誤嚥性肺炎」によるものです。誤嚥性肺炎の増加は日本が高齢化社会になった証しでもあるのです。
細菌性肺炎と誤嚥性肺炎は、同じ肺炎という名前はついていますが原因は全く違うものです。誤嚥性肺炎は認知症や脳卒中がきっかけとなり、脳の機能が低下して発症します。のどの奥は胃につながる食道と肺につながる気管に分かれていますが、気管には喉頭蓋(こうとうがい)というフタがあります。口から流れてくる食物や唾液が気管に入らないように脳が指令を出して塞ぐのです。
ところが、認知症や脳卒中などにより脳機能が不全状態になると食物や唾液をうまく食道に運べず細菌が付着した食物や唾液が気管に入ってしまい発症するのが誤嚥性肺炎です。細菌性肺炎は抗生剤を使えば快方に向かうことが多いのですが、誤嚥性肺炎は抗生剤を使っても治りにくいのが特徴です。人は年齢を重ねるうちに脳機能が衰えます。そうなると、さらに嚥下機能が衰えることで肺炎を何度も再発してしまうのです。
対策として歯磨きをして口の中の細菌をできるだけ減らして清潔に保つことが大切です。食後に座位、つまりしばらく背筋を伸ばして座ることで食物が食道を通って嚥下されるようにしていくことも予防につながります。病院や歯科医院では、嚥下機能回復のためのリハビリテーション(嚥下リハビリ)を実施しているところもあります。水のようなサラッとした物質でもゼリー状にすると気管に入らず、むせずに飲めるようにリハビリをするのです。
高齢者化社会となり、老化に伴う嚥下機能の低下は避けられない現実でもあります。日頃から認知機能が低下しないように日々活力ある生活を続けることも大切です。何より嚥下に少しでも違和感があれば専門医にまず相談することが一番の対策です。
担当医
那珂川病院
副院長 福岡市医師会常任理事
立元 貴(たつもと・たかし)先生
協力:福岡市医師会