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ハットをかざして 第177話 キュロットの娘

ハットをかざして 第177話 キュロットの娘


 1974年、会社対地元テレビ局の親睦を兼ねたボウリング大会があった。私は高校時代からボウリングが好きで、故郷の田舎町にも15レーンほどのボウリング場があった。ブランズウィック社製で、まだ糸吊りのピンだった。縁日の砂糖菓子の吊り物に似ていた。昔の日活映画を見ると、東京青山ボウルあたりは、学生バイトがピンの上の空間に身を隠し、ボールが通過すると、倒れたピンをかたずけて、二投目のためにまた上の空間に隠れていた。糸吊りはまだいい方だった。

 上京してから、三鷹の井の頭に下宿したので、歩いてすぐの井の頭ボウルで投げていた。早朝7時に行くと、1ゲーム100円くらいで遊ばせてくれた。昼間に行くと1ゲーム250円で、2時間待ちはざらだった。それほどのボウリング・ブームだった。井の頭ボウルを中心に、池袋のハタボウル、青山ボウル、柿の木坂ボウルあたりで楽しんだ。もちろん、東京はすでに糸吊りなどではなく、AMF社の全自動だった。

 上京してから、三鷹の井の頭に下宿したので、歩いてすぐの井の頭ボウルで投げていた。早朝7時に行くと、1ゲーム100円くらいで遊ばせてくれた。昼間に行くと1ゲーム250円で、2時間待ちはざらだった。それほどのボウリング・ブームだった。井の頭ボウルを中心に、池袋のハタボウル、青山ボウル、柿の木坂ボウルあたりで楽しんだ。もちろん、東京はすでに糸吊りなどではなく、AMF社の全自動だった。

 大会は博多スターレーンで行われた。60名くらいの参加だっただろうか。同レーンに管理課の可愛い娘がいた。まだ話をしたこともなく、ここは一番頑張ろうと気合を入れた。左右2レーンを交互に投げる。右は油がのって速い。左は油が薄くて遅い。速い方はフックボールで、遅い方はストレートボールでと考えた。ハウスボールはドリルの穴がなかなか指と合わない。指が合っても、今度は掌の長さと合わない。ボールと掌が密着しないと力は半減する。レーンにボールをゴトンと落とすと回転がなくなり、威力がなくスプリットが出やすい。ボールはスムーズにレーンに接触させ走らせなくてはならない。フックボールは15ポンドにし、ストレートボールは16ポンドにした。

 フックは右寄り外側に立ち5歩助走とし、ストレートはほぼ中央に立ち4歩助走とした。管理課の彼女は紺のキュロット・スカートを穿いていた。ピンク色の12ポンドほどのボールを投げていた。

 ずいぶん久しぶりのボウリングなので、1ゲーム目はストライクが出ず、ほとんどスペアでカバー、点もはかどらず160点くらいだった。2ゲーム目もなんとかスペアで凌いで、やはり160点台。ストライクもたまに出たが、ほぼブルックリンで褒められたものではなかった。彼女にいいとこを見せようと3ゲーム目は集中した。とにかく3ゲームで500アップを狙った。逆算すると180点以上をマークしなくてはならない。遊びでは最高260点くらいはたまに出していた。

 一投目からストライクが出た。二投目、三投目も、水の江(ターキー)がやってきた。調子が出て、気分が乗ってきた。ピンが近くに見えるようになった。また水の江が出た。後ろで彼女の喜ぶ声が聞こえる。結果、210点ほどを出し、計530点ほどで優勝した。ほかに500アップの人はいなかった。

 このキュロットの娘が、今の私の女房である。


中洲次郎=文
text:Jiro Nakasu
昭和23年、大分県中津市生まれ。
博報堂OB。書評&映画評家、コラムニスト、エッセイスト。
近著「伊藤野枝と代準介」(矢野寛治・弦書房)
『反戦映画からの声』(矢野寛治・弦書房)
新刊『団塊ボーイの東京』(矢野寛治・弦書房)
◎「西日本新聞 TNC文化サークル」にて
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やましたやすよし=イラスト
Illustration:Yasuyoshi Yamashita

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