世は万華鏡11・貴婦人と貴公子のホテル

世は万華鏡11・貴婦人と貴公子のホテル


貴婦人と貴公子のホテル

5月3日(土)から5日(月)まで、うきは市吉井町で24回目の「小さな美術館めぐり」が開かれる。

第1回から実行委員会で頑張っているのが、同世代の山崎曻三さん。旧吉井町職員として、「まちおこし」に取り組んでいた頃からのお付き合いである。

とは言え、毎年欠かさずご案内を頂きながら、この10年ご無礼を続けてきた。しかし、今年は無性に吉井の白壁通りを歩きたいとの思いに駆られている。

いままさにGW。その過ごし方は人さまざまだろうが、私はこの季節になると決まってある短編小説を読み返す。オー・ヘンリーの『桃源境の短期滞在客』(新潮文庫)だ。

7月のある日、ブロードウェイのホテルに1人の女性が1週間の予定で宿泊する。このホテル、森に囲まれ、料理、サービスも超一流。理想的な避暑地、いや桃源境の趣さえある。

さて、その女性、優雅な振る舞いと気品ある容姿。伯爵夫人か、世界を旅して回る大金持ちか、とボーイや宿泊客は噂する。その3日後、今度は貴公子のような青年が投宿する。

知り合いになった2人は、朝な夕なに言葉を交わし、海や山の俗化を嘆く。ホステスとして客をもてなす欧州の古城、これから乗り込む豪華客船…と互いが持ち出す華やかな話題で時間が過ぎていく。

ところが、その貴婦人はホテルを去る前日、静かに告白する。

自分は伯爵夫人などではなく、ニューヨークのデパートの靴下売り場の店員で、少ない給料を1年間貯金し、ドレスを作ってこの豪華ホテルにやってきたこと。

朝7時に寝床を這い出す毎日だが、せめて1週間だけは好きなときに起きてご馳走を食べ、貴婦人のように過ごしてみたかったこと。その望みが叶い、これからまたいつもの仕事と狭いアパートに戻って満足な気持ちで暮らしていくと打ち明け、作り話を詫びる。

黙って聞いていた貴公子もまた身の上を語り出す。自分はあなたがまとっているドレスの洋服屋の集金係で、このホテルに泊まるため同じように懸命にお金を貯めたこと…。

豪華ホテルで休日を過ごすという同じ夢を持ち、それを実現した偶然に驚きながら、心のもやもやが晴れた2人は“下町”でのデートを約束して、桃源境の夏物語は終わる。

人や車であふれ返るGW。豪華ホテルでの胸ときめく出会いは無理としても、ときには喧騒から距離を置くのもいい。貴婦人と貴公子の淡いシルエットに、青春を重ねる私なのである。



馬場周一郎=文(ジャーナリスト。元西日本新聞記者)
幸尾螢水=イラスト

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