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ハットをかざして 第137話 ああ紅テント

ハットをかざして 第137話 ああ紅テント

中洲次郎=文 やましたやすよし=イラスト


1970年、4年生の秋、大学祭で学生会が状況劇場「紅テント」を校庭に呼んだ。唐十郎という男が主催しているアングラ劇団である。

我々学生は新宿花園神社を追われてからのジプシー劇団「紅テント」に惻隠の情を抱いていた。他劇団にも花形役者は多かったが、とくに「紅」には人を魅了する役者が揃っていた。

不気味でどこかお茶目な麿赤児、不可思議で幽鬼のような大久保鷹、妖気をはらんだ李礼仙、美しい女よりもより美しい四谷シモン、二枚目スター根津甚八、とにかく走り回る十貫寺梅軒、どこか抜け作の不破万作、それに御大唐十郎である。

小林薫はまだその他大勢で、幕間のつなぎで歌を唄っていた。学生会は彼らを30万円のギャラで呼び、入場料は500円だったか700円だったか、お題も「少女仮面」だったか、「愛の乞食」だったか、すでに47年前の話であり定かではない。

大学の本館の前庭に紅のテントが設営された。人気劇団であり、夕刻の時間前より長蛇の列である。私は最前列を狙いトップ集団に並ぶ。大向こうの掛け声を掛けるためである。女子たちは根津甚八が目当てであった。

テントに入る、左右とセンターに通路がある。役者たちが走り回るためである。靴をビニール袋に入れて膝に抱く。両こぶし腰浮かせで前へ前へと膝をずる。あの狭いテントに押し競まんじゅうのように学生たちが犇く。始まると着流しで長髪ざんばらの大久保鷹が鶏の死骸をつかんで出て来た。何を唱えているのか不明である。

ちょいと奥にスキンヘッドの麿が御地蔵様のようにしゃがみ込み、客席を睨んでいる。チョゴリ姿の李礼仙、着流しのシモン、甚八と揃ったところで、やおら座長唐十郎が白ハット白スーツで登場した。

「カラ」「カラ」「カラ」「カラ」の声が処々方々から掛かる。唐が決めポーズをとった瞬間、「カラ、ジューロー!」と腹からの掛け声を掛ける。横の長い髪の女子が私に憧れの視線をくれる。これが最前列の特権だ。唐の金歯が照明に光る。ニヤリと嗤い、「待たしちゃって、ゴメンね!」の見栄を切る。素晴らしい輝きと、得も言われぬ腕白小僧のような魅力に溢れた男だ。

台詞量もさることながら、運動量も物凄く、常に動きながらのせりふ回しである。よく鍛えられている。誰かの歌の間に呼吸を整えているようだ。シモンの「お銀のうた」に聴き惚れる。家の貧しい娘の奉公勤めの身の上ソングである。唄と云うより、語りに近い。

紅の役者たちは唾を大量に飛ばす。最前列はそれをもろに被るのが辛い。横の件の女子が身をヒシと擦りつけてストーリーを教えてくれと囁く。肉感が伝わる。この喧騒の中では教えづらく後でねと返す。唐の「愛の床屋」となる。

♪ごらん ごらん カミソリが舞う ごらん ごらん 首が飛ぶ♪、これも台詞歌でストーリー物である。昔でいえば、「のぞき節」に似ている。

狂乱は終わった。テントの裏では七輪で鍋が煮られていた。先ほどの鶏の白い羽が回りに散っていた。私は長い髪の女子を連れて吉祥寺の夜に消えた。

中洲次郎
昭和23年、大分県中津市生まれ。
博報堂OB。書評&映画評家、コラムニスト、エッセイスト。
RKB毎日放送「今日感テレビ」コメンテーター。
近著「伊藤野枝と代準介」(矢野寛治・弦書房)
新刊『反戦映画からの声』(矢野寛治・弦書房)

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