本サイトはプロモーションが含まれています。

ハットをかざして 第152話 ネクタイの良い会社

ハットをかざして 第152話 ネクタイの良い会社

中洲次郎=文 やましたやすよし=イラスト


 昭和46年4月2日、入社式。濃紺のスーツに、紺と銀のレジメンタル・ストライプのネクタイで臨む。社長面接が終わってから、髭と髪は伸ばし続けていた。サラリーマンになることへの、せめてもの抵抗だった。長髪組は多かったが、髭は少なかった。
 男女混交、大卒・短大卒合同の式典が社内講堂で行われた。壇上に会長・社長・副社長を筆頭に全部門の役員幹部たちが居並ぶ。全員、濃紺のスーツである。しかもネクタイのセンスがいい。地味派手で品があり、エレガントである。私はネクタイのセンスの良い会社は社風も良い、の持論をもっていた。
 会長の挨拶は、金子みすずの「みんな違って、みんないい」を中心に据えた挨拶だった。個性を大切に、自分らしさを大切に、うちの会社にはそれを許容する自由がある、そんな趣旨だったと覚えている。
 社長の挨拶は、広告業は新聞、テレビ、ラジオ、出版雑誌のマスコミの中では下の方に位置づけられているが、今に広告がその四媒体に肩を並べ、マスコミの中で重きを為していくだろう、と檄を飛ばしてくれた。新聞社、放送局に落ちた者も多いだろうが、今に見てろの精神で頑張ってほしいとの内容だった。
 次に財務担当の役員から、今の広告界のマージンについての説明があった。新聞広告15%、テレビが15~20%、ラジオが20~25%、雑誌がやはり20%等の説明があり、イベント事業は5~10%。今後はテレビ広告を徹底的に伸ばしていかなくてはならない、と力説した。続いて、問題は制作費、つまりクリエイティブ費用の正当な利益を今後図っていかなければならない、テレビCM、ラジオCM、新聞広告、ポスター等の制作費はサービスだと思われている、制作費からも正当なフィーという利益を得ていかなければ会社及び広告業界の発展はない、との課題を縷々(るる)述べた。皆さんの給料は会社が払っているのではなく、クライアントつまりお得意先から戴いている、と云うことを肝に据えて頑張って下さい、で終わった。
 なるほど、給料というものは勤務する会社から貰うものだと思っていた。給料は自分が担当する会社からの売り上げから出ていると、分かりやすい言葉だった。要はサラリーマンという者は、戦国時代の御陣場借りの足軽みたいなものだ、ならば首級をたくさん挙げて、剽悍(ひょうかん)にやっていくしかないと覚悟した。「七人の侍」(黒澤明監督)という映画のポスターで、空中にジャンプしている三船敏郎の姿が浮かんだ。
 式典の後、コピーライター組5人は別室に集められた。コピー室長は45、6歳くらい、色の白い目の涼やかな男、髪はオールバックで柔らかに押さえている。作曲家の団伊玖磨風とでも云おうか。スーツもベージュの上質のフラノ上下、カッターシャツもベージュで、ネクタイは焦げ茶の無地で少し光沢のあるシルクだった。背丈もあり、なかなかのダンディである。
 「皆さんのことを良く知りたいので、一人20分間のお話をお願いします。生い立ち等は要りません、どんなお話でもけっこうです」と、莞爾(かんじ)として云った。

中洲次郎
昭和23年、大分県中津市生まれ。
博報堂OB。書評&映画評家、コラムニスト、エッセイスト。
RKB毎日放送「今日感テレビ」コメンテーター。
近著「伊藤野枝と代準介」(矢野寛治・弦書房)
新刊『反戦映画からの声』(矢野寛治・弦書房)

関連するキーワード


ハットをかざして

最新の投稿


50代の女性におすすめのプチプラコスメ13選|手に取りやすい価格で満足できる化粧品を厳選紹介

50代の女性におすすめのプチプラコスメ13選|手に取りやすい価格で満足できる化粧品を厳選紹介

50代の女性におすすめのプチプラコスメを13選ご紹介します。プチプラコスメは手に取りやすい価格が魅力。気軽にお試しでき、これまでに使ったことのないブランドやカラーに挑戦できる点もうれしいですよね。本記事では、プチプライスで満足できる品を厳選。化粧品を選ぶ際の参考にしてくださいね。


[母の日ギフト]70代・80代のお母さんが喜ぶプレゼント12選!実用品・食べ物・カタログギフトなどから厳選

[母の日ギフト]70代・80代のお母さんが喜ぶプレゼント12選!実用品・食べ物・カタログギフトなどから厳選

お母さんに日頃の感謝の気持ちを伝える「母の日」。ありがとうとともに素敵なギフトを一緒に贈ってみませんか。本記事では、実用品や食べ物、カタログギフトなど、さまざまな品のなかからアイテムを厳選しました。70代・80代のお母さんが喜ぶ母の日ギフト12選ご紹介します。


[2024年版]喜ばれるお見舞い品の選び方&おすすめ商品15選|お菓子・フルーツ・飲み物・など

[2024年版]喜ばれるお見舞い品の選び方&おすすめ商品15選|お菓子・フルーツ・飲み物・など

大切な友人・知人、会社の先輩・同僚・部下が入院したと聞けば心配でお見舞いに駆け付けたいもの。そんな時に喜ばれるお見舞い品を、バリエーション豊かにご紹介!事前に相手の体調の状態やシチュエーションをリサーチし、ふさわしい手土産を準備しましょう。[2024年版]喜ばれるお見舞い品の選び方とおすすめ商品15選をお届けします。


[2024年版]引越し挨拶の粗品にぴったり!もらって嬉しいおすすめギフト10選

[2024年版]引越し挨拶の粗品にぴったり!もらって嬉しいおすすめギフト10選

引越しの段取りの中で忘れてはいけない、引越し先のご近所さんへのご挨拶。より快適な新生活を送るためには、ご近所さんとの良好な関係は不可欠です。「これからよろしくお願いします」という想いを込めて、気の利いた粗品で新生活を始めましょう![2024年版]引越し挨拶の粗品にぴったりのおすすめギフト10選をご紹介します。


女性への2万円のプレゼントおすすめ12選【アクセサリーから家電まで】多彩に紹介!

女性への2万円のプレゼントおすすめ12選【アクセサリーから家電まで】多彩に紹介!

ステキな女性に贈りたい!予算2万円で購入できる、上質かつ高級感あふれるおすすめ商品をご紹介します。2万円という決して安くない予算をかけるプレゼントは、相手が心から喜んでくれる品を選びたいもの。女性へのプレゼント選びは相手の好みやライフスタイルに大きく左右されるため、簡単なことではありません。ここでは、アクセサリーやファッションアイテム・家電・日用品など女性向けのおすすめアイテムを多様なジャンルからご紹介します。人気ブランドの商品や日本製の高品質な商品を厳選したので、プレゼント選びの参考にしてくださいね。


発行元:株式会社西日本新聞社 ※西日本新聞社の企業情報はこちら