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長谷川法世のはかた宣言61・豊前の絹綿

長谷川法世のはかた宣言61・豊前の絹綿


三代実録※1の新羅海賊の記事で、いちばん早いのは、貞観11年(869)6月15日条だ。

「大宰府の報告。5月22日の夜、新羅の海賊二艘が博多津に来て、豊前の年貢の絹綿※2を掠奪した。兵が追ったが逃げられた」

海賊襲来の場所は「博多津」だ。博多湾が舞台とは注目度100%だな。そうして、4回めの記事12月14日条ではじめて「筑前国那珂郡荒津」と、襲来した地域を限定した。なんだ、福岡部かあ。平安京の貴族は、博多湾岸の個々の地名などまったく無関心だったろう。でも、税物が奪われたんでは捨てておけない。博多湾のことを大宰府の役人に根掘り葉掘り聞きまくったにちがいない。

では、博多津の荒津で税物絹綿はどのように奪い取られたのか。それは、2回めの記事にくわしい。7月2日の条だ。

「詔※3で大宰府司を厳しく叱った。①諸国の貢調使吏※4は一緒に出発し、船団から離れてはいけないのに、豊前一国だけ先に進発させた。また②弱奸の人、餌を虎の口に乗す。それでついに新羅の賊に侵掠させてしまった。官物を失っただけでなく、③国威を損辱させたのだ。前代未聞で、後世に伝えるのに面目がない。そもそも大宰府の役人に怠りがあった。また、海辺の百姓5〜6人が命がけで海賊を追って戦い、二人を弓で傷を負わせたと聞いた。そんなりっぱな行動を④大宰府は報告もせずに隠していた。また⑤禁ぜし人は嫌疑有りといへども、是に縁りて異邦最も仁恕※5を思はむ。宜しく拷法を停じ、深く廉問を加へて早く放却すべし、と」②⑤は読み下しのまま。〇数字法世)

①貢調使吏は、調物を都まで運ぶ運脚隊の指揮者。ふつう国司目※6以上の役人が任に当たったが、大宰府は大宰典以上の任。②弱奸※7 の人が餌を虎の口に乗せた、というのはただ事じゃない。海賊の手引をした者がいたということだろう。規則を破って一艘だけ漕ぎ出させたのは、いかにも二艘の海賊船に餌を与えたようなものだ。ずっと前に書いた藤原元利萬呂(第5回)が頭をよぎる。

③調は朝廷に納める税、その損失額の問題だけでなく、国の威信を失墜させた前代未聞の大事件だ。兵が追ったが逃げられた(初回の記事)が、海辺の民が命がけで追いかけ手傷を負わせた(捕らえた?)。なのにまったく報告しなかった。怠慢極まれり、と大宰府を叱りつけるようすが目に浮かぶ。

⑤は、捕らえた人は嫌疑があるが、異邦新羅は仁恕をねがっているだろう。拷問を口頭での尋問にかえ、早く解き放て、と命じている。海賊を仁恕をもって開放しろとは甘すぎるようだけど。

ところで前回の、年表の出典が1183種ある話。担当のY女史が「全部読むには、不老不死のヴァンパイアになるしかありませんね、法世さん」という。どなたか首筋を噛んで※8もらえまいか。

*1)三代実録…本稿では「読み下し日本三代実録」戎光祥出版から現代語意訳(法世意訳だから正確さは疑問)。

*2)絹綿…くず繭製の真綿。英語だとfloss。デンタルフロスって絹なんだ。ところで、絹綿を絹・綿と2品目に分けて書いてある本もある。別項で考える。

*3)詔…御言宣(みことのり)。天皇のおことば。

*4)貢調使吏…読み下し本ではぐちょうしり。納税当事者の公民からつくる運脚隊(足で運ぶ)を率いて上京する役人。納める調・庸などの物資と、その記録簿を納入。税制租庸調の調は繊維製品など。運脚隊は食糧も自前で行き倒れになる者もあった。ちょっと時代が下る延喜式によれば、九州二島は所轄の大宰府まで納税者が運び、あとは大宰府がまとめて京まで運んだ。

*5)仁恕…あわれみ深くおもいやること。仁は孔子の教えで儒家の道徳思想の中心。6月の海上保安学校門司分校修了式のニュースで修了生の挨拶が確か「私たちは仁愛の精神を持って…」だった。

*6)国司目・大宰典…目も典も和訓はさかん。佐官のことで佐はたすける意。諸官司の幹部四等官(長官・次官・判官・主典)の四等。史・録・疏・令史・主典・目・典など、みな和訓はさかんで四等官。文字で所属役所がわかる。

*7)弱奸…手元の辞書にない。弱冠(少数の意)に、奸(悪者)を当てたか。

*8)首筋を噛んで…映画「インタヴュー・ウィズ・ヴァンパイア」のキルスティン・ダンストなら、少女だから牙も小さくてあまり痛くないかも。

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