本当は、博多湾で略奪された豊前国の絹綿について、掘り下げたいけれど、勉強が進まない。絹綿はあとまわしにして、筑前国の調について書いてみる。これがおおごとっす。
律令時代、全国諸国は基本、運脚(徒歩)で税物を京まで運んだ。けれど、西海道※1=九国二島は、大宰府まで運べばよかった。九国二島の税物を、大宰府はまとめて、船で京まで運んだ。金納の現在とくらべると、物納というのは、納めるのも、徴収するのも大変だ。
「延喜式・主計・上」にのっている、左の行程一覧、大宰府は京までの日数、他は大宰府までの日数。てれっとながめないとストレスがたまる。
西海道
大宰府=行程上27日・下14日。海路30日
筑前国=府を去る行程1日※2。
筑後国=行程1日。
肥前国=上1日半下1日。
肥後国=上3日下1日半。
豊前国=上2日下1日。
豊後国=上4日下2日。
日向国=上12日下6日。
大隅国=上12日下6日。
薩摩国=上12日下6日。
壱岐嶋=海路行程3日。
対馬嶋=海路行程4日。
荷のある上りは下りより日数がほぼ倍だ。
さあ、わが筑前国が、どんな税物を納めたか。実は右の行程日数のあと、つぎのように税物一覧が書かれているのだ。他国もそれぞれおなじ形式だ。唖然呆然、でしょ。てれっと、てれっと。
筑前国【去府行程一日】
調=絲39、貲布35端※3、綿紬5疋※4、席363枚、大甕9口、小甕195口、 195口、麻笥盤56口、水椀320口、海石榴油一斛4斗6升4合、御取鰒260斤、羽割鰒6斤、葛貫鰒108斤、蔭鰒135斤、鞭鰒24斤、腐耳鰒182斤、醬鮒128斤、鮨鮒208斤、海藻368斤2兩。自餘輸、絹※5、布、鍬、鐵、短鰒、薄鰒、鮨鰒、火燒鰒、鹽。
庸=熬海鼠828斤、鹽3石9斗7升5合。自餘輸、綿、布、鐵、米、鹽、薄鰒、火燒鰒、雜魚醋。
中男作物=木綿、穀皮、麻、席、防壁、蒲薦、韓薦、苫、簀、漆、胡麻油、海石榴油、荏油、鹿脯※6 、鹿鮨、押年魚、烏賊、鯛醋※7、雜魚楚割、腐耳鰒、鮨鰒、腸漬鰒、鮨鮒、醬鮒、鹽漬年魚、海藻
以上が、わが筑前国が、毎年大宰府へ納める調・庸・中男作物の税品目と、その量※8だ。これらの63品目、かな?の税物から、大宰府が必要な物を取り、のこりを京へ船で納めた。西海道の調物は綿だけ※9と、どこかに書いてあったような。
とりあえず、最初の「絲39 」だけでも勉強しておこう。 は糸の重さの単位。主計・上の別条に「絲は一丁で と成す。中絲は5両を と為す」とある。成人男子ひとりが収める量は1 。中絲と定められている国は5両を一 とせよ、という。つまり、絲39 とは、筑前国正丁のうち39人が絲を納め、ほかの正丁はそれぞれ別の調物を納めよということ(多分)。
1両=13.9g※10。39×5×13.9=2710.5g。これが筑前国が納める絲の重さだね。やれ、生涯学習は骨が折れるわい。
*1)西海道…さいかいどう。現九州の筑前国以下9国と壱岐対馬。
*2)府を去る行程1日…原文はあとの【去府行程一日】。【 】は割書(わりがき)・割注(わりちゅう):本文中に小字2行で注が書いてあること。以下、危なっかしくご説明。
*3)貲布35端…貲布(さよみのぬの・さよみ・しふ)はシナノキの皮でつくった布。のちに粗い織りの麻布(蚊帳用とか):大辞泉とかによる。貲布1端=長4丈廣(幅)2尺と別条規定。1尺=24.7㎝(=唐小尺。大尺なら29.6㎝。高麗尺は35.5㎝)、1丈=10尺で、長988㎝幅49.4㎝を35端。「四丁成端」とあるので、正丁4×35=140人分。
*4)綿紬5疋…綿(真綿)の紬。つむぎは織物なのに、綿の紬ってなんだ?別条規定で「三丁成疋:長四丈五寸廣一尺九寸、但し西海道諸国長三丈九尺」。なので5疋は正丁15人分。換算表に疋は719年制以下同とあるけど、大尺は唐大尺か、高麗大尺か。わからないことだらけで、以下略。てれっと、てれっと、てれっと。
*5)自餘輸…「じよは、いたせ」と読む、そうだ。以下、絹~雜魚醋までを輸せ、のこと。
*6)鹿脯…ほじしは乾した肉
*7)鯛醋…きたいは丸ごと乾した魚鳥の肉。
*8)税品目とその量…量が書いてない品目は、別条に細かく規定がある。絲に関する規定も別条にある。また、主計・上だけ読んでもわからない事が多い。
*9)西海道の調は綿だけ…虎尾俊哉編「訳注日本史料延喜式・中」集英社(1481頁ある)だったと思うが、夏バテで探し直す気力が。税物の読みがなは同書による。
*10)1両=13.9g…岩波日本史辞典の古代度量衡換算表による。以下も同じ。
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