いつもの食事で元気になれる 「薬膳」の知恵
「薬膳」と聞くと、漢方薬や特別なスパイスをイメージして、なんだかまずそう、難しそうと思っている人も多いのでは?
薬膳は、「食べ物によって自分の体のバランスを整えましょう」という考え方で、決して難しいものではありません。
人は体のバランスが崩れているときに不調を感じたり、病気になったりします。そうなる前に、季節の食材や体質に合った食材を選ぶことで「“食”をとおして健康を維持しましょう」。もう一歩進むと、体に不調を感じた時に「“食”によって症状を改善しましょう(食療法)」というものです。
中医学では、薬と同じく一つ一つの食べ物には作用があると考えられています。「医食同源」「薬食同源」と言われるように、薬と食べ物は同じ方向を向いていて、手前にあるのが食べ物で、そのもっと先にあるのが薬。病気になれば薬を用いればよくなりますが、強い薬であればあるほど、体に負担がかかってしまいます。
まずは自分の体質や体調をよく知ること。そして、季節に合わせて食材選びや食べ方を変えるだけ。今回は珍しい食材も一切ありません。
毎日口に入れるものをちょっと意識するだけで、夏を元気に乗り切る方法を、薬膳のプロが伝授します。
◎薬膳における食材一つ一つの効果を理解すると、体質や体調にあった食材選びがより的確にできるようになります。
一般の人向けに簡単にまとめた雑誌などもたくさんあります。興味を持ったら、ぜひ本屋さんに足を運んでみてください。
症状で選べる 薬膳の考えをもとに不調知らずの体を目指す 夏におすすめの食材
夏の不調は体に熱がこもり体内の水分バランスが乱れる「暑邪(しょじゃ)」と、体内に余分な湿気がたまる「湿邪(しつじゃ)」が主な原因。体を上手に冷ますこと、湿気を体の中から出すことが夏の薬膳のポイントです。旬の食材には、その季節に合った効能があるので、夏の食材をとおして体の中のバランスを整えましょう。
また、何を食べるかだけでなく“食べてはならないもの”を知ることも大切。夏に控えたいのは「冷たいもの」「生もの」「脂っこいもの」「甘いもの」。これらは体内に湿気を呼びこみ胃腸の負担になるのでほどほどに。
あなたの冷えはどのタイプ? 冷え
■体を中から温める食材を選び 冷え体質を改善しよう
「冷え」には気(※1)の巡りが悪く一年中手先など末端だけが冷えている人、そして、夏でも腰やお腹など体全体が冷えている人、などいくつかのタイプがあります。まずは自分がどのタイプなのかを知ることが大切です。
おすすめ食材
気の巡りが悪く手先などの末端が冷える人には柑橘類がおすすめ。香りを嗅ぐだけでも良いし、一年中いろいろな料理にレモンなどの旬の柑橘類を搾って食べるとなお良し。一方、夏でも体が芯から冷える人は体を温める鶏肉や牛肉、猪・鹿などのジビエを食べるとよいでしょう。体がポカポカと温まり、冷えた邪気が汗と共に出ていくと言われています。
体を温める鶏肉のスープ
鶏肉で出汁をとり塩で味を整え、ネギやショウガを入れただけのシンプルなスープ。夏にフーフー言いながら食べるのがミソ。骨つきの鶏肉(ぶつ切り)がおすすめ。「血(※2)」が足りなくて疲れている人は「親鳥」を選んで。
体力が低下し不調の無限ループに 食欲不振
■生ものはNG!「蒸し」て胃の調子を整える
食欲不振は、胃の消化・吸収機能が低下し、きちんと動いていないから。消化に良いものを食べて胃腸の調子を整えることが大切です。
胃腸が弱っている人には調理方法がとても重要です。食材を生のままで食べると体に堪えるので、生野菜は控え、蒸して食べましょう。発酵食品も食欲を増進させるので、蒸し野菜に味噌を塗って食べるのも◎。夏は胃の許容範囲が狭いので「何事も食べすぎない」が基本中の基本。
おすすめ食材
酢やトマトはどちらも食欲をそそらせ消化を促進します。長いもは胃腸の働きを高めスタミナ強化にも。ショウガやミョウガ、ニンニクなどの香味野菜で食欲を刺激するのも良いですね。
丸ごとトマトのピクルス
酢1/2カップ、水2と1/2カップ、蜂蜜小さじ1、塩小さじ1、黒粒胡椒5~6粒で作ったピクルス液の中に、湯むきしたトマトを入れて冷蔵庫へ。最低3時間漬けるとおいしくいただけます。4〜5日は保存可能。
暑い期間が長くなり体も悲鳴 夏バテ・だるさ
■疲れた、動けない、そんな時は動物性のパワーをいただく
胃がきちんと動かなくなって食欲不振になり、次にやって来るのが夏バテやだるさ。自分の中で“気”が生み出せなくなり、体がついてきません。そんなふうにがっつり疲れてしまったら、動物性の力を借りましょう。
おすすめ食材
夏にピッタリな肉は豚肉。薬膳では潤いと元気を補う時に使われます。体の基本となる「気」と「血」を増やす作用があります。パワーをいただくという意味では他の肉でもOK。薬膳では鶏肉や牛・羊、鹿などのジビエは体を温め、豚肉や馬肉は体を冷ますと言われます。好みだけでなく季節に合わせて肉を選ぶことも大切。ウナギも言わずと知れたパワフル食材。
スペアリブと旬野菜のスープ
鍋にスペアリブと水を入れ沸騰させあくをとる。トウモロコシを入れ中火で1~2時間煮込む。味付けは塩だけ。トウモロコシのひげにはむくみ取り効果もあるので一緒に煮込んで。野菜は、真夏はゴーヤ、初秋は山芋など旬に合わせて変えていくのが体にも正解。
夏になるとお腹が緩くなりがち?腹痛
■お腹の冷えからくる腹痛は食べ物の力で体の中から温める
腹痛にもいろいろありますが、夏、冷たいものばかり食べてお腹が痛くなったり、エアコンで体が冷えてお腹が痛くなったりという時は、ほとんどが冷えが原因の胃腸トラブル。体を温めてくれる食材を選び、外からだけでなく、体の中から温めてあげましょう。お腹を温めても気持ちが良いと感じない場合、症状が改善しない、症状が長引く場合は医療機関にご相談を。
おすすめ食材
お腹を温めるのは麦芽水飴。痛み止めとお腹の中を温めること、両方が期待できます。昔は海水浴で泳いだ後に、冷やし飴を飲んでいた人も多いのでは?とても理にかなっていて、喉の渇きを潤し、体を温めてくれます。
麦芽水飴ドリンク
コップ1杯のお湯に、大さじ1杯ほどの麦芽水飴を入れてよく混ぜて溶かす。すりおろしたショウガを入れれば、さらにお腹はポカポカに。ホット、アイスはお好みでどうぞ。手軽な飴玉タイプもおすすめ。昔ながらの優しい甘さが体に染みます。
暑すぎ、寒すぎ、困ったものです 夏風邪
■睡眠、朝ごはんで疲れ知らずに プラス食べ物でバリアを強化!
夏風邪をひかないために、体のバリアをしっかり固めることが大事。疲れていると風邪をひきやすいので、きちんと睡眠をとる、しっかり朝ごはんを食べる、これが「気」と「血」が戻ってくる秘訣です。その上で、旬の食べ物を用いてバリアを高め、風邪をひきにくい体を維持しましょう。
おすすめ食材
体に熱が入ってきやすい人には、体をクールダウンしてくれる緑茶、夏野菜、果物がおすすめ。体内の湿気をとるなら、利尿作用のある大豆や枝豆などの豆製品を。「気」が足りない時はお米がいちばん。一年中しっかり食べたいですね。豚肉やオクラもパワーがあります。
蒸し野菜
バリアを高めるなら、胃腸にもやさしい蒸し野菜。カボチャやナス、アスパラなど夏野菜を蒸してポン酢や塩、味噌でどうぞ。補気になるオクラや長芋、キノコ類もおすすめ。おにぎり、動物性のものを使ったスープとご一緒に。
(※1)「気」…生命エネルギー
(※2)「血(けつ)」…血液だけでなく、血液に溶けた栄養やホルモンなども含む概念。血液と同じように脈中を循環し、全身に栄養分を行きわたらせる作用を持つ。
「夏はスパイス料理♪」 にちょっと待った!
夏と言えばスパイシーな料理。刺激的な香りが食欲をそそり、暑い中汗をかきながら食べると爽快感すらあります。
スパイス(=香辛料)は「辛温(しんおん)」といって体内の気を巡らせて体を温め、胃の調子を整える働きがあります。スパイスが豊富なアジアの国は、一年をとおして高温多湿なため、体内から奪われるものも多く、強烈なスパイスをとることで体のバランスを整えます。一方、日本人は胃腸が弱く、もともと日本になかった外国の香辛料の強い刺激にも、あまり慣れていません。同じスパイスを同じようにとると、体に大きな負担がかかってしまいます。
日本人に適した暑い夏のお助けスパイスは、実はとても身近で昔から馴染みのあるものばかり。当たり前にとってきた香辛料や香味野菜ですが、改めて効果・効能を知ることで、より積極的に毎日の食事に活用してみては?
■シソの葉
特有の香り成分は精神安定に。消化器系を整え食欲増進効果も。
◎相性の良い活用法
豚のしゃぶしゃぶを包んだり、刻んでナスの揚げびたしに盛ったり。夏は常備してこまめに使いたい。
■ワサビ
胃腸を温めて機能を回復させ、食欲を促す。殺菌、解毒作用もある。
◎相性の良い活用法
ステーキなどの肉全体にワサビを薄く塗ってから焼くと、消化を助け、味わいもぐっと大人に。
■柚子こしょう
免疫機能を強化し、抗酸化作用によって細胞を保護する働きがある。
◎相性の良い活用法
柚子こしょうで肉をもんで焼いたり揚げたりすると美味。みそ汁など汁物に入れると風味がアップ。
取材協力
国際中医師
国際中医薬膳師
宇津原 知世美 先生
国立北京中医薬大学日本分校卒。日本中医学院(旧北京中医薬大学日本校)の提携校となる「中医薬膳 宇津原教室」主宰。婦人会、公民館講座、小中学校、各種団体などからの講演依頼を受け、中医学的考え方、薬膳、養生の大切さを分かりやすく伝え、健康な暮らしを自分で創ることができる社会を目指し活動を行う。