衣装協力:Yohji Yamamoto POURHOMME
4年ぶりに帰ってくる平成中村座
2019年11月、チケットも即日完売と大好評だった平成中村座小倉城公演。待望されながらもコロナ禍に阻まれていた状況を経て、4年ぶりに帰ってきます。北九州市制60周年の大型記念事業でもある今回の公演に先立ち、中村勘九郎さんにお話を伺いました。
「勝山公園に出来る特設劇場は、江戸の芝居小屋が再現されていて、通常の席に加えて、特徴的な『お大尽席』と『桜席』という座席があります。『お大尽席(だいじんせき)』は、舞台真正面の二階に四席しかない贅沢(ぜいたく)な席です。『桜席』は二階席左右の定式幕の内側の席で、舞台転換や幕が閉まって役者がオンからオフに切り替わるところなど通常では目にすることがない部分を観ることができます。こういう特別な席があるためか、お客さまとの距離がいつも以上に近くて、境界線がない一体感がありますね。お客さまからも同じ演出、同じ台本であっても平成中村座の方がわかりやすいと言うお声もあるほどです」
さらに開演前、幕間、終演後と終始楽しめる仕掛けも盛りだくさんに用意されているそうです。
「特設劇場なので不便なこともあるのですが、その不便さを上回る仕掛けがたくさんあります。父(十八世中村勘三郎)がディズニーランド好きだったことから隠れミッキーならぬ『隠れ勘三郎』もその1つ。十八世にちなんで、十八か所に隠れていますので是非見つけて頂きたいです。またお茶子さんたちのエンターテインメントあふれる案内も平成中村座の名物になっています」
そして、その特設劇場の周りを盛り上げる長屋も、前回から十軒増え三十軒長屋へとグレードアップ。城下町の風情が楽しめるさまは、さながらタイムトリップをしたかのようです。
「三十軒長屋では、江戸だけでなく地元北九州の小倉織をはじめ全国の職人がそろいます。芝居を支えてくれている職人たちの物作りの工程や技術を生で見られる貴重な機会です」
平成中村座にゆかりのある飲食店の出店も予定されており、飲食あり、伝統工芸の実演あり、お土産も買える城下町の賑わいが公演に花を添えます。
小倉城を借景にゆかりのある演目が目白押し
昼の部と夜の部、それぞれ九州や小倉にちなんだ演目で構成されており、前回好評だった小倉城を借景にした演出も引き続き行われます。
「4年前にご覧頂いた方にも更に楽しめるような構成を考えています。
まず、昼の部の『義経千本桜』は、歌舞伎三大名作の1つで、兄・頼朝に追われた義経一行が西国(九州)に逃れるお話です。父が浮世絵から発掘した衣裳(いしょう)や男のロマンや戦国を生きる女性、戦国の無常さなど、中村座ならではのダイナミックな演出が見どころです。『風流小倉俄廓彩(ふうりゅうこくらにわかさとのいろどり)』は、小倉城を借景に役者総出演で古典をベースとしながらも全く新しいお祭りの雰囲気で踊る楽しい演目です。義経千本桜の重厚さの後に、さっぱりとした踊りを楽しんでいただく構成になっています。
夜の部の『小笠原騒動』も平成中村座小倉城バージョンで、夜の小倉城の借景はもちろんですが、前回の公演の時にご縁があった小倉祇園太鼓の皆さまとの共演も見どころの1つです」
北九州の皆さまのあたたかさに感謝
「前回の公演期間中、北九州の皆さまにとても良くして頂き、あちこちで平成中村座のことを耳にしました。あたたかく迎えて頂いたこと、街一丸となって応援してくださったことが、本当にありがたかったです。この受けた御恩は舞台上でしか返すことができないので、今回も精一杯勤めようと思っています」
北九州・小倉の人への感謝を繰り返し言葉にする勘九郎さん。昨年の旦過市場の火災についても非常に心を痛めており、チャリティイベントも企画されています。
「『小倉の街を元気に』と思っていますが、お客さまの熱気と拍手に逆に元気をもらってしまいます。一緒に街ぐるみで盛り上がってくれたら嬉しく思います」
そんな思いから、地元北九州の人により多く足を運んでもらいたいと、今回の小倉城公演では、北九州市民先行発売も行われました。
26日間で全47公演とハードスケジュールの中ですが、公演期間中の楽しみについても伺いました。
「ごはんがとにかくおいしいので、まずそれが楽しみです。そして、お酒もおいしい。(中村)鶴松の影響で好きになったサウナなど、他にも楽しみにしていることはたくさんあります。なかなかゆっくりと観光できませんが、時間を見つけていろいろなところに伺いたいです」
心のこもった言葉で伝えてくれる勘九郎さん。そこには、今回の公演にかける熱い思いとおもてなしの心があふれていました。待ちに待った「平成中村座小倉城公演」。いつもの街が城下町に姿を変えるこの期間でしか出会えない賑わいと、特別な空間を体験しに行ってみてはいかがでしょうか?