九州の風土から育った近代洋画 時空を超えて継承される美術の力
九州出身者が日本の近代洋画をリードしました。黒田清輝、藤島武二、青木繁、坂本繁二郎、東郷青児等々、錚々たる顔ぶれです。
近代洋画の父といわれる黒田清輝は鹿児島市出身です。左に紹介する『桜島爆発図』の「噴火」と「降灰」の2つは、20世紀の日本で最大の火山災害と言われる1914年1月に起きた桜島の大正大噴火を描いたものです。父親の病気見舞いに帰省していた黒田は、地震が続く桜島に渡るなど積極的に取材し、記録としても貴重な6枚の絵を残しました。東京美術学校(現在の東京芸術大学)の教授として、美術家の育成にも努めます。
坂本繁二郎は、青木繁と同じ1882年に久留米市で生まれました。上京して腕を磨きフランス留学も果たしますが、神戸港に着いた後は故郷に直行。それ以後一度も上京せず、八女にアトリエを建てて、駆け回る馬や野菜などを描き続けます。左の『幽光』は、1969年、坂本の絶筆とされる作品です。老いとともに、描く対象は観念的になっていったといわれます。
今回の展示作品を描いた63人は、外交官であり官僚だった百武兼行や、筑豊に生まれ育った野見山暁治、シュルレアリスムの古賀春江、九州派の菊畑茂久馬と多種多彩です。それぞれが生きた時代を概観すれば、文明開化から日清日露に2度の世界大戦、炭坑の盛衰や健康を蝕んだ公害、度重なる自然災害と激動の時代でもありました。
現代注目の画家もいます。佐賀県多久市出身の池田学は1973年生まれ、緻密な作風が人気です。ポスターにも使われている下段の『再生』は、沈没船が色とりどりのサンゴで覆われ、魚が群れ遊んでいるようです。白い部分はインクを使わない白抜きで、ペンの細かなタッチのため、1日10センチ四方ほどしか描けないそうです。この緻密さは、会場でご確認ください。
九州の大地が育んだ名画の数々は、地域に根差すことの意義と、多様な価値観の大切さを訴えかけているようです。見る人に今を生きる力を与えてくれる!そんな美術展です。
黒田清輝《桜島爆発図》より 「噴火」「降灰」
1914年 鹿児島市立美術館
坂本繁二郎《幽光》1969年
石橋財団アーティゾン美術館
繁竹治顕
元NHK記者。’93年全米オープンゴルフ、’94年リレハンメル冬季五輪、2000年シドニー五輪などを取材。福岡放送局広報事業部長、副局長。現在、九州国立博物館振興財団専務理事。西南学院大学非常勤講師(ジャーナリズム)
福岡近郊博物館・美術館のスケジュール
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■九州国立博物館
特別展 海幸山幸 ‐ 祈りと恵みの風景 ‐
~12月5日(日)
●一 般 1,600円(1,400円)
●高大生 1,000円(800円)
●小中生 600円(400円)
休館日/毎週月曜日
☎050・5542・8600(ハローダイヤル)
■福岡アジア美術館
コレクション展 バングラデシュ独立50周年記念「わが黄金のベンガルよ」
カムルル・ハサン《女性》 1972年
~12月25日(土)
●一 般 200円(150円)
●高大生 150円(100円)
●中学生以下無料
休館日/水曜(水曜が祝日の場合は
その翌平日)、年末・年始
(12月26日〜1月1日)
☎092・263・1100