伝統の技と新しい美が融合した造形 地域と生活に根差した工芸品の競演
美の息づかいが聞こえそうです。受け継がれた技が生み出す、今を生きる工芸美です。
55回目の今年は、陶芸や染織、漆芸など7つの部門に、九州・沖縄と山口県の工芸家から453点の応募がありました。優れた技術と生活に即した実用性を兼ね備えた美しさが審査のポイントのひとつです。主な受賞作が左の写真です。
最優秀の朝日新聞社大賞を受賞したのは、松枝小夜子さんの久留米絣着物(くるめかすりきもの)「露(つゆ)の波(なみ)」。天然藍の滑らかな濃淡の中に、白い斑紋がどこまでも広がっています。夫妻で多くの名作を発表してきましたが、去年夏に他界した夫の哲哉さんが染めた糸で織りあげた遺作となりました。図案から完成までの36もの工程の積み重ねが、素朴な色合いの着物に凝縮されています。
中村弘峰さんの陶彫彩色(とうちょうさいしき)「菖蒲野(あやめの)」は、日本工芸会賞に輝きました。コロナ禍克服の願いを込めて、端午の節句に魔物を払うといわれる菖蒲(しょうぶ)を作品名に取りました。色付けには日本画の顔料を使っています。中村さんは「江戸時代の人形師が現代にタイムスリップしたら」との発想で、アイデアを練るそうです。
日本工芸会西部支部長賞の江里朋子さんの截金飾筥(きりがねかざりばこ)「季風(ときのかぜ)」は、桐の箱に髪の毛ほどの細い線の金とプラチナを貼りつけて、太陽と月をイメージしています。風を受けて回る無数の小さな風車のデザインが印象的です。構想から完成まで2年を要しました。
後継者の育成が伝統工芸の課題ですが、西日本新聞社賞を受賞した下段の小倉織帯(こくらおりおび)「彩層(さいそう)」の内山啓大さんは38歳。濃淡の縦じまの幅は、日本人が好む白銀比(はくぎんひ)となっています。バスケットボールで汗を流すことが、次のステップにつながると言います。
会場には応募作の他、小石原焼の福島善三さんなど審査対象外の人間国宝の作品も展示されます。伝統の技と新たな生活の美の融合は、SDGsとニューノーマルを模索する私たちの手掛かりにもなりそうです。
朝日新聞社大賞
松枝小夜子 久留米絣着物 「露の波」
日本工芸会賞
中村弘峰 陶彫彩色 「菖蒲野」
日本工芸会西部支部長賞
江里朋子 截金飾筥 「季風」
繁竹治顕
元NHK記者。’93年全米オープンゴルフ、’94年リレハンメル冬季五輪、2000年シドニー五輪などを取材。福岡放送局広報事業部長、副局長。現在、九州国立博物館振興財団専務理事。西南学院大学非常勤講師(ジャーナリズム)
福岡近郊博物館・美術館のスケジュール
※( )内の料金は、特別・前売り・団体料金、詳細はお問合せください
■九州国立博物館
御大典記念 特別展 よみがえる正倉院宝物 -再現模造にみる天平の技-
模造 螺鈿紫檀五絃琵琶
正倉院事務所蔵
~6月13日(日)
●一般 1,600円
●高大生 1,000円
●小中生 600円
休館日/月曜
☎050・5542・8600(ハローダイヤル)
■福岡県立美術館
ムーミンコミックス展
ⒸMoomin Characters™
~7月11日(日)
●一 般 1,500円
●高大生 1,100円
●小中生 600円
休館日/月曜
☎092・715・3551
■福岡市美術館
高畑勲展 〜日本のアニメーションに遺したもの〜
ⒸZUIYO・「アルプスの少女ハイジ」公式HP
http://www.heidi.ne.jp/
~7月18日(日)
●一般 1,500円
●高大生 1,000円
●小中生 600円
休館日/月曜
☎092・714・6051
■三越ギャラリー
第55回 西部伝統工芸展
西日本新聞社賞 小倉織帯「彩層」
内山 啓大
6月2日(水)~6月7日(月)
●入館無料
休館/なし
☎092・724・3111
熊本市の鶴屋百貨店東館7階
「鶴屋ホール」でも
6月16日(水)〜21日(月)開催
■長崎県美術館
長崎開港450周年記念 長崎港をめぐる物語
山下清《長崎風景》1963年
十八親和銀行蔵 Ⓒ山下清作品管理事務所
~6月13日(日)
●一般 420円(340円)
●大学生・70歳以上 310円(250円)
●小中高生 210円(170円)
長崎県内小中学生無料
休館日/第2、第4月曜
(祝日の場合は翌火曜)
☎095・833・2110
●新型コロナウィルス感染拡大防止のため、休館・展覧会が中止・延期される場合があります。
お出かけ前に各施設のホームページなどを確認してください。