「丸好食堂」
福岡県久留米市安武町安武本3057
午前11時~午後9時 日曜定休 ラーメン550円/焼めし550円
チャーハンと焼きめしってどう違う? ご飯を炒めるという意味ではどちらも大差ないのではないか。実際、東日本はチャーハンという呼び名が主流で、西日本に行くにつれ焼きめしになるという調査もある。それでも違うというなら、前者がチャーシュー入りで米粒一つ一つが卵に包まれた中華料理。対する後者は、かまぼこ入りで醤油をたらして焼き色をつけた日本の料理だろうか。
ここは福岡県久留米市の「丸好食堂」。そんなこと考えていると、注文の品が運ばれてきた。具材は卵、ネギ、人参、かまぼこ。熱々で湯気が立ち上る。「チャーハンとの違いなんて意識したことない。けど、うちのは『焼きめし』ですよ」。2代目の平川広義さん(59)はそう言い添えた。丸好は、沖食堂をはじめとする久留米に多い「食堂系」と呼ばれる老舗ラーメン店の一つ。ラーメンと並ぶ看板メニューがこの焼きめしである。
創業は昭和42年。肉牛の生産農家だった父親の広己さんが「畜産業とは違う食い扶持を」と発案し、母親の好美さんが中心となって始めた。食堂という名の通り、焼きめしなど豊富なメニューをそろえた。ラーメンは職人を雇い入れて教えてもらったという。
「最初は全然だめでずっと赤字。味を変えていくと軌道に乗ったみたいです」。昭和40年代後半、平川さんが中学生になる頃には繁盛しだし、牛肉輸入自由化の話が持ち上がり始めていた畜産業はやめて食堂経営一本にしぼった。
そんな平川さんが厨房に入ったのは27歳の頃だ。好美さんが体調を崩したため、トラック運転手の仕事を辞めて実家に戻った。好美さんが復帰した後もそのまま働き、両親引退後は2代目として店を守った。
「継ぐつもりはなかったんですけどね」
と平川広義さん
目玉焼、酢豚、野菜いため、焼そば、焼肉…。壁にはずらりとメニュー札がぶらさがる。ホルモンをつまみに酒を飲む客がいれば、焼きめしをシェアしてラーメンをすする家族連れがいる。そんな多彩なメニューが、世代を超えた人たちを惹きつけてきた。「大変だけど、メニューを減らすつもりはない」と言う。その裏には3年前から働く息子、涼太さん(27)の存在がある。今では時折、厨房を3代目に任せ、常連さんと杯を交わす余裕もできた。「親父もよく飲んでいた。その血ば引いてるのでしょうね」と平川さん。
焼きめしとほぼ同時にラーメンはやってきた。さらりとしたスープは豚骨のみを炊いたもの。その口当たりはあっさりだが、「軽い」のではない。久留米らしい豚骨の深みがぐいっときて、後味が持続する。一方の焼きめしは塩加減が絶妙だ。これ以上強ければラーメンのスープを飲むのがきつくなる。ぎりぎりのところで抑えているのがいい。
チャーハンと焼きめしってやはり違う。チャーハンはラーメンと一緒に食べたくない。けれども焼めしならいける。ボクにとっての違いはそこにある。
文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社出版グループ勤務。
著書に「ラーメン記者、九州をすする!」
CROSS FM「URBAN DUSK」内で月1回ラーメンと音楽を語っている