伝統工芸の技と先端科学が最高度に融合 色鮮やかな天平文化がよみがえる
諸行無常。形あるものはいつか壊れます。ノートルダム寺院や首里城の火災は衝撃的でしたが、時の経過だけでも姿かたちは変化します。優雅で貴重な文化財を後世に伝える方法のひとつが、精巧な模造の製作です。
ポスターのデザインにもなっている『螺鈿紫檀五絃琵琶(らでんしたんのごげんびわ)』は、正倉院宝物の代表的な模造です。聖武天皇ゆかりの楽器は、本体に紫檀材が使われ、線彫りした夜光貝や彩色したべっ甲で華麗な装飾が施されていました。しかし、作られてから千年以上も過ぎて、明治時代に大がかりな修復が行われる前は、装飾がはがれ部材も脱落した無残な状態でした。
更に平成になって、演奏可能な楽器をめざし、正倉院事務所が改めて再現に取り組みます。X線も使った科学的調査と、人間国宝をまじえた伝統工芸の技とが融合した、学術的にも芸術的にも最高度の復元作業でした。それでも材料の紫檀やべっ甲は入手が難しく、完成に15年を要します。九博では明治と平成に再現された2つの琵琶の展示とともに、製作の様子や伝統工芸家のインタビューも紹介します。
写真の『黄銅合子(おうどうごうす)』も精緻で複雑な姿を取り戻した模造のひとつです。高さ15センチほどの真鍮(しんちゅう)製で、五つの輪が層のように連なった蓋の部分は、50枚以上もの小さな部材を重ねています。仏前で香炉として使われたと考えられています。
『正倉院古文書正集(しょうそういんこもんじょせいしゅう) 第38巻』は、「嶋郡(しまぐん)」今の福岡市西部から糸島市にかけての地域の戸籍です。戸籍を記した紙はその後バラバラにされ、帳簿や写経に再利用したものが東大寺に残されていました。9年前に太宰府市国分で出土し、歴史的大発見と注目された「嶋評戸口変動記録木簡(しまのこおりここうへんどうきろくもっかん)」と同じ地域の記録です。
今年は大宰府がわが国初の史跡に指定されて100年。令和ゆかりの地で開かれる、天皇陛下の御即位を記念する特別展に、歴史のえにしを感じます。
模造 黄銅合子 正倉院事務所蔵
模造 正倉院古文書正集第38巻〔筑前国嶋郡川辺里戸籍〕(部分) 国立歴史民俗博物館製作
繁竹治顕
元NHK記者。’93年全米オープンゴルフ、’94年リレハンメル冬季五輪、2000年シドニー五輪などを取材。福岡放送局広報事業部長、副局長。現在、九州国立博物館振興財団専務理事。西南学院大学非常勤講師(ジャーナリズム)
福岡近郊博物館・美術館のスケジュール
※( )内の料金は、特別・前売り・団体料金、詳細はお問合せください
■九州国立博物館
御大典記念 特別展 よみがえる正倉院宝物 -再現模造にみる天平の技-
模造 螺鈿紫檀五絃琵琶
正倉院事務所蔵
4月20日(火)~6月13日(日)
●一般 1,600円
●高大生 1,000円
●小中生 600円
休館日/月曜(5月3日は開館)
☎050・5542・8600(ハローダイヤル)
■福岡市博物館
ミイラ 〜「永遠の命」を求めて〜
ペンジュの棺
レーマー・ペリツェウス博物館
ROEMER- UND PELIZAEUS-
MUSEUM HILDESHEIM
4月10日(土)~6月27日(日)
●一般 1,600円
●中高生 1,200円
●小学生 600円
休館日/毎週月曜
(5月3日は開館・5月6日(木)休館)
人数制限があるため、土日祝は
博物館HPからのオンライン予約を推奨
☎092・711・5491
■福岡アジア美術館
あじびde初詣2021 ~アジアの神さま大集合!
~4月13日(火)
●一般 200円
●高大生 150円
●中学生以下無料
休館日/水曜(水曜日が休日の場
合はその翌平日)、年末年始
☎092・263・1100
■久留米市美術館
デビュー50周年記念 萩尾望都 ポーの一族展
4月17日(土)~6月13日(日)
●一般 800円(600)円
●65歳以上 600円(400)円
●大学生 500円(300)円
●4月25日(日)と5月5日(水・祝)は
入館無料
休展日/月曜(5月3日は開館)
☎0942・39・1131
■長崎県美術館
深堀隆介展 「金魚鉢、地球鉢」
《金魚酒 命名 出雲なん》2019年
~4月18日(日)
●一般
平日1,100円 土日祝1,200円
●小中高生
平日500円 土日祝600円
●小学生未満無料
休展日/3月22日(月)、4月12日(月)
☎095・833・2110
●新型コロナウィルス感染拡大防止のため、休館・展覧会が中止・延期される場合があります。
お出かけ前に各施設のホームページなどを確認してください。