包丁研いで感動を
あまりの寒さに、ただでさえ出不精なのに、より出不精になった気がする。コロナ禍のため、遠出することも憚られる。家では何の役にも立ててないので、カミさん孝行を何かしようと思い立ったのが「包丁研ぎ」である。
まずホームセンターで中ぐらいの粒子を持つ砥石と仕上げ用の細かい粒子の砥を貼り合わせた一体型の砥石を購入した。そして、砥石に十分に水を吸わせ刃先を左側にして峰を上にする。右手で柄をしっかり握り、親指だけは刃元の上に当てて安定させる。続いて、研ぐ角度を決める。なれないうちは一円玉2~3枚を峰の下に挟み、刃先を当てて角度を確認するといい。研ぐ部分を左手の人さし指と中指で押さえ、砥石の前方に押し出す時にやや力を入れて研いでいく。
何度か研ぐうちに、研いだ部分の反対側の刃を指の腹でなでてみると「かえり」が出ているのが分かる。かえりとは、刃先がかすかにめくれている微妙なひっかかりだ。この時、人間の指先が大変優秀なセンサーだといつも感心する。もう一つ、包丁研ぎは台所など大量の水を使うので常に水を流しっぱなしにすると思いがちだが、研ぐうちに水が砥石と混じり粘り気が出る。その一見汚れた水も研ぎを促進してくれる。
研ぐうちに、鋼が削れていく独特の金属の香りが漂ってくる。鉄の街北九州市出身のせいか、私はこの金属臭も嫌いではない。切っ先から刃の中ほど、そして刃元まで刃全体にかえりが出たら包丁を裏返す。今度は手前に引くときに力を入れて再び反対側にかえりが出るまで研ぐ。裏に貼り合わせてある切れ味を良くする仕上げ砥も同じ要領で研いでいく。最後は、粗い布で残った、かえりを取れば終わりだ。
切れ味を確かめる。もしかすると、この作業が一番の喜びかもしれない。冷蔵庫内をあさり野菜の切れ端を探し出して切ってみる。シュッと包丁が入ればOKだ。とはいえ、時代劇マニアの私が切れ味を確かめるのに一番使うのは新聞紙だ。居合い斬り風に、かつて紙面づくりに身を捧げた西日本新聞に刃がスーッと入っていくと複雑だが感動を覚える。
包丁を研ぐ岡ちゃん
文・写真 岡ちゃん(岡田雄希)
元西日本新聞記者。スポーツ取材などを経験し、現在ブログやユーチューブなどに趣味や遊びを投稿し人生をエンジョイするぐらんざ世代。