~12月13日(日)
福岡が生んだマルチな鬼才画家 故ダイアナ妃もお気に入りの木版画
海に山、そして世界をフィールドにした画家でした。
『光る海』は、吉田博の代表作のひとつで、下の欄の展覧会のチラシにも使われています。舞台は、船が帆をいっぱいに張った凪の瀬戸内海です。海面にきらめく陽の光の帯を、彫刻刀の丸ノミを使って、木版画ならではの技法で表現しました。故ダイアナ妃が執務室の壁に掲げていたことでも知られています。
日本山岳画協会の結成に関わるほど山にも親しみました。右下の『溪流』は、畳半畳ほどもある特大サイズです。谷川の清流の透明感と早瀬で湧き上がる爽快感とを、精巧に描写しています。原画は18年前に自身が描いた油絵で、福岡市美術館が所蔵しています。日本アルプスや富士山、マッターホルンなど登山家ならではの数多くの作品があります。
吉田は1876年、久留米市で生まれました。修猷館中学で図画教師の吉田嘉三郎に才能を認められ、本格的に絵画の道を歩み始めます。最初に渡米したのは23歳の時。描いた絵を現地で売った金で、アメリカからヨーロッパへと足を延ばし、審美眼と画技を磨きました。
その吉田が本格的に木版画制作を始めたのは49歳でした。関東大震災の被災画家救済のための訪米で、日本の木版画の人気の高さを知ったことも、転機になりました。
浮世絵の技法を取り入れて、自ら彫刻刀を握るだけでなく、彫りや摺りに優れた職人との共同作業で完成度を高めました。多いものでは90回も重ね摺りをしたり、同じ版木で色合いを変えて時間の経過を表現したりと、独創的な工夫を積み重ねました。自身を、オーケストラの指揮者と評したといいます。
熱帯魚のカラフルな色合いが微笑ましい『ホノルル水族館』は、吉田の幅の広さをうかがわせます。木目を生かしたユニークな作品です。
水彩に油絵に木版画、欧米だけでなくエジプトや東南アジア、庶民生活から雄大な自然と、多種多様な作品の数々は、計り知れないスケールの大きさを示しています。
吉田博「溪流」
吉田博「ホノルル水族館」
繁竹治顕
元NHK記者。’93年全米オープンゴルフ、’94年リレハンメル冬季五輪、2000年シドニー五輪などを取材。福岡放送局広報事業部長、副局長。現在、九州国立博物館振興財団専務理事。西南学院大学非常勤講師(ジャーナリズム)
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■九州国立博物館
文化交流展:特集展示 しきしまの大和へ 奈良大発掘
土偶 縄文時代晩期
紀元前約10~4世紀
橿原考古学研究所蔵
~12月20日(日)
●一般 700円
●大学生 350円
●高校生以下・18歳未満および
満70歳以上無料
休館日/月曜(ただし11月23日(月祝)
は開館、24日(火)は休館)
☎050・5542・8600(ハローダイヤル)