福島第一原発事故から9年目の映画化
9年経った今でも忘れられない映像がある。福島第一原子力発電所、1号機原子炉建屋の爆発映像。これからこの国はどうなってしまうのか。日本中の人々が固唾を飲んで福島第一原発を見守っていたあのとき、原発内では何が起こっていたのか。
佐藤浩市さん主演の映画『Fukushima50』は、最悪の事態を防ぐため東日本大震災直後に福島第一原発内で懸命に闘っていた作業員たちを描いた作品だ。
「映画としてこれを取り上げるのは、早いのか遅いのか。それは各々の判断だと思うんですよ」と佐藤さんは主演作について語る。
「映画館の暗闇の中で観るのは、正直言って耐え難い痛みを強いるシーンも沢山ある。でも、それを乗り越えて最後まで踏ん張って観ていただけると、あらためて思うこと。そういうことがいっぱいあると思うんですよね。帰宅困難区域のことなど、色々なことがあり過ぎちゃって、この映画でやっていることだけが一つの正解とはならない。だけど、もう一度俎上にあげること。それで皆さんがどう思われるか。映画化は早いかなと思ったけれど、逆に言うとギリギリこの時期で良かったなと。今だとまだ痛みがある分、色んなことを皆でもう一回考えようということが言えるのではないでしょうか」
原発を訪れて感じた怖さが滲み出る
映画ということはわかっていても、今まさに事故が起こっているのではないかと思わせるほどの緊迫した演技。そのリアルさの裏には何があるのだろうか。
「イチエフ(福島第一原発)には当然入れませんが、他の原発へ見学に行き、炉の近くまで行かせてもらいました。廊下には、通常のエリアと放射線管理区域の境界線のような轍が本当にあるんです。そこで片足ずつ靴を脱いで、防護用の長靴に履き替えて入っていく。正直言って怖いですよ。でも、僕にとって非日常のことを、ほんのちょっとだけ経験するだけで、色んなものが渦巻いていく。これが作業員の日常なんだと。そういうことを感じるだけでも違うと思います。それに朝起きて撮影に行けば、カメラにほとんど映らないくらいの暗いスタジオが待っていて、ましてや防護服を着けて演じる。皆の顔が自然と日々変わっていきましたね」
取材中、佐藤さんが一段と真剣な顔をして話していたことがある。
「僕らは結果が分かっていて、そこにいますからね。でも、実際の作業員の人たちは、どうなるのかわからないでそこにいたという恐怖、責任感。色んなものを感じながら1分1秒過ごした5日間だったと思います」
観客である私たちも、現場の彼らが感じたことの全てを知ることはできない。しかし、命がけで原発事故と向き合った彼らの闘いを、少しでも感じることができれば、何かが変わるかもしれない。
ⓒ2020『Fukushima 50』製作委員会
映画『Fukushima 50』
■監督:若松節朗
■出演:佐藤浩市、渡辺謙、吉岡秀隆 他
■配給:松竹、KADOKAWA
◎ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13、T・ジョイ博多、福岡中洲大洋、ユナイテッド・シネマ 福岡ももち、シネプレックス小倉ほかにて公開中
山﨑智子=文
text:Tomoko Yamasaki