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ハットをかざして 第100話

ハットをかざして 第100話

中洲次郎=文 やましたやすよし=イラスト


眠る獅子

再び夜行で金沢を後にする。

車窓から夜空を見上げると、北に光る大きな星が私を見つめていた。ふっと高校時代に自殺したMの顔が浮かんだ。お互いこんな世の中に生まれて来たくなかったな、と話し合っていた友だ。結局、Mの自殺の原因は成績が上がらなかった所為にされた。当時、1クラス50人体制で1学年9クラスあり、9組は文系の1ー50番、8組は理系の1ー50番、1学期毎の実力テストで一般クラスとの入れ替えがあった。文系51番なら、下のクラスに落ちていく。Mは落ちて行った。まだ失恋で死んだ方がカッコ良い。悪いが、くだらぬ死だった。

「Mよう、オレはまだ死なないよ。オマエは死んでラクになったろう。今頃は涅槃でのんびり結跏趺坐しているのだろう。何をあくせくと下界を見下しているのだろう」

「次郎、いい大学へ行って、一流会社に入って、良いところの娘を嫁にして、子を作って、孫だ孫だと親によろこばれて、そこそこ出世して、家のローンは30年、やっと払い終えるころには定年して、年金で暮らせないから再就職。運が良ければ孫でも抱けるが、禿頭になり、筋肉は衰え、やがて目は霞み、指は震え、血管の筋は醜く浮かび上がり、顔は染みに皺だらけ、尻の肉は垂れ、認知がでて、徘徊老人になって、病院で管に巻かれて哀れな老衰、グッドバイ。先のことはすべて完璧なシナリオのように見えているじゃないか。」

「判っている、分かっているんだ。ただ、オマエの云う通りになるかどうか、確かめてみたい。多分、きっとオマエの云う通りだろう…。オマエのシナリオ通りならまだいいかもしれない。もっともっと酷い人生かもしれない、が…もう少し惑って迷って、うろたえてみたい。」

Mの顔が車窓から消えると、北の大きな星も消えていた。日本海の荒波の音がドドーンと鼓膜に響く。同時に前田純孝(翠渓、明治13年| 44年)の短歌が浮かんできた。

人のため流るる涕 のこるかや
我もたふとし尚生きてあらむ

自殺したMが成績が落ちたのは明白だった。高校生の分際で「文学界や群像」を読み始めたからだ。日々、主要五科目に徹していればよかったのだ。要らざるものが彼の脳裏に入り込んでしまった。文学に目覚めなければ、順当に成績は伸びていたであろうし、健やかな高校生活であったろう。青春の隘路は「文学と恋愛」だ。魔風恋風が胸の中に吹き始めた輩も、概ね一般クラスへとカンダタのように落ちて行った。享楽主義、頽廃主義、虚無主義、堕落への憧れ、高校で酒に煙草を覚え、映画にかぶれ、文学に淫する。その上に女か…。落ちこぼれていく者はそれらに全ての罪を被せる。

Mの以心伝心のようになるのか、ならぬのか。帰京したらしばらく生活を正し、友の囁きに抵抗してみようと思う。

岩にぶつかる波の音が獅子の咆える声に聴こえた。汽車は東京を目指していた。

わが胸に眠る獅子あり
目をさまし立てがみたてて
咆ゆる日あれど
(前田純孝)

中洲次郎
昭和23年、大分県中津市生まれ。
博報堂OB。書評&映画評家、コラムニスト、エッセイスト。
RKB毎日放送「今日感テレビ」コメンテーター。
近著「伊藤野枝と代準介」(矢野寛治・弦書房)
新刊『反戦映画からの声』(矢野寛治・弦書房)

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