大海の磯もとどろに寄する波 われて砕けてさけて散るかも ―源実朝
磯は石や岩の多い水辺。荒磯という言葉もありますな。鎌倉将軍実朝が目にした太平洋岸の夏は南風で大波。かたやわが博多湾は北向きで冬が荒波。現西公園下の荒津は冬風をよけやすかった。江戸期、大船は荒津※1 に停泊したけれど、問題は古代の荒津だ。
論文集『古代の博多』に博多古図※2 が4枚ある。鴻臚館の前は海岸で、海にふたつの岩が描かれている。大筑紫・小筑紫※3 という名だ。さて、岩の周囲は砂か岩か?
福岡平野の地質図※4 をみると、丘陵地は基盤岩類※5 とか。鴻臚館あたりの丘陵地も、荒津山(西公園)も基盤岩類。なら、大小の筑紫岩や、いまもある宇久嶋(鵜来島)は、基盤岩類の海上露出なのか。では、周囲は暗礁だったか。暗礁の海は浅ければ波が立ち、荒津という名にふさわしいかも。荒い海に船を停泊させるだろうか。櫛田神社をはじめ蒙古の碇石があちこちにある。古代の碇も石ならば、岩場に沈めると引っかかったり割れたりするかも。
さて視点を移して考えてみよう。古地図で住吉神社の前面は、草香江とともに大きな入江だ。不思議なことに冷泉之津※6 と称されるまでの名称を知らない。平凡社『福岡県の地名』※7 那津の項で、那津は那珂川河口付近では、といい、娜大津も同地だろうという。博多・博多津の項では、博多津は博多湾の総称、筑紫大津も同じ、博多大津、大宰博多津などが同じとされている。古代の那珂川河口とはどこをいうのだろう。
『博多郷土史事典』※8 では博多の項で、博多大津・筑前大津・儺津・那津・儺大津・筑紫大津・荒津を博多湾のこととしている。
住吉神社前の入江を、仮に「住吉の江」と名付けると存在感が増す。古代の那珂・比恵地域の人々にとって日常的に身近な海は、那珂川と比恵川の河口※9 に広がる住吉の江のはず。『福岡県の地名』で那津を那珂川河口付近とするが、なぜかこの入江との関係は明示されない。
博多湾のいくつもの異称の「―津」と「―大津」をざっくりと、津だけの名称を住吉の江(仮)、大津のつく名称を博多湾と考えることはできないのだろうか。異称の内、大宰博多津は、大宰が国の管理を表すので国家管理の大津と考えてみる。東洋文庫※10の注に「(博多大津の)大津は国家の管理する港の意であろう」とある。
数ある異称の中で「荒津」だけが海の状態を表している。住吉の江で日常暮らしている人びとからすれば、住吉の江の外は、波の「荒い大津」と見えたのではないだろうか。それが、航海術の発展で博多湾の波がそれほど気にならなくなると、荒津の名は博多湾の中でも特に波の荒い場所に限定して残ったと考えるのはいかがだろう。本当に、古代の荒津に大船は寄泊したのだろうか。
「場末」というたった二文字から、荒い理屈をこねているのだけれど、ボクらは、ね。つづく
*1)荒津…江戸期は荒戸。貝原益軒『筑前国続風土記』巻四:荒津「…博多の辺より荒戸山まですべて荒津といへるが、つと、とと、通音なれば今は転じて荒戸といへるなるべし」(ネット:中村学園貝原益軒アーカイブによる)
*2)博多古図…第10図~第13図
*3)大筑紫・小筑紫…4枚の古図の内、判別明確な第12図による。13図は大築石小築石のようだ。築の字ならば人工の可能性も?
*4)福岡平野の地質図…白水晴雄『博多湾と福岡の歴史』梓書院18頁下山正一98年制作図より。下山正一『福岡市の地質環境の変遷』89年:所収『新修福岡市史:自然と遺跡からみた福岡の歴史』32頁~。このお二人も九大の先生。
*5)基盤岩類…読解力が無くて右の両書を読んでもよくわかりませんで説明不能。このあたりの岩類は花崗岩(御影石)のようだ。岩は福岡城・城下町・荒津(荒戸)の波止の造成に利用したか。
*6)冷泉之津…貞応元年(1222)博多津に人魚があがり、冷泉中納言が都から検分に来て国家瑞兆の証とした。冷泉之津の名称はそれからと伝わる。冷泉山龍宮寺には人魚塚と人魚の骨がある。冷泉之津が入江全体か、博多のそばの一部分をさすか、考え所。
*7)『福岡県の地名』…日本歴史地名大系41
*8)博多郷土史事典…井上精三・葦書房
*9)河口…軍事施設と考えられる那津の官家がつくられた:書紀:宣化元年夏五月条「那の津の口(ほとり)の官家」。『福岡県の地名』は那珂・比恵遺跡北部を関連遺構とする。住吉神社の可能性は?
*10)東洋文庫…直木孝次郎ほか訳注『続日本記3』巻22の注。
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