その小冊子がダイエーホークスの選手たちに配布されたのは1993年のことでした。配ったのは西武ライオンズからやって来て、この年から指揮を執る根本陸夫監督。表紙には「必勝法・必敗法」と記されていました。
オレンジ色の小冊子が「必勝法・必敗法」。
緑色の「ランニング・ゲーム」も配布された。
根本監督が西武から持ち込んだ〝虎の巻〟。西武では、常勝軍団への礎を築いた広岡達朗監督が、連日のミーティングでナインにたたき込でいたそうです。
なるほど広岡氏の原作かと思えば、ご本人はユーチューブでこう明かしています。「広島が必勝法70か条、必敗法70か条というのを米国から取った。マル秘だけど、辞める時にこっそり持って帰った」。西武の監督に就任する約10年前、広島カープのコーチを辞する際に、メジャーリーグ発祥の秘伝の書を頂戴した、というのです。
広岡氏が広島を退団した当時の監督は根本氏。ならば根本作かといえば、これまた違うようです。川上哲治監督時代の巨人に、まさに「野球必勝法70か条」と「野球必敗法70か条」があったというのです。ロサンゼルス・ドジャースの戦術書を熟読した名参謀・牧野茂コーチが独自に作り上げたのだとか。
ドジャースを源流にV9巨人で生まれて…となれば説得力が何倍にも膨らむもの。では、その内容は。
必勝法の第1条には、こう記されています。
「正しい身体づくりをし、常にベストコンディションを保つよう努力せよ」
一方、必敗法には。
「正しい身体づくりをし、トップ・コンディションを保つことをしない」
ほかには。
必勝法「野球のルールについて完璧な知識を持て」
必敗法「野球のルールを十分に知らない」
ほぼ全編にわたり、必勝法を逆転させた文言が必敗法に書かれています。しかも、ほとんどが野球選手にとって「いろはのい」。小学球児でも知っている、こんな項目もあります。
必勝法「外野手は、すべてのフライに対して大声を出せ」
必敗法「外野へのフライに対し、外野手が大声を出さない」
つまりは凡事徹底、当たり前のことをきちんとやれってこと。これは、なにも野球に限った話ではありません。
でもねぇ…。健康に暮らすには「良い睡眠をとる」「バランスのとれた食事をする」「無理のない運動」「節酒・禁煙」。分かっちゃいるんだけどねぇ。
文 富永博嗣
西日本新聞社で30数年間、スポーツ報道に携わる。ホークスなどプロ野球球団のほか様々な競技を取材。昨年3月に定年を迎え、現在は脳活新聞編集長。