自由奔放で大胆な構図に見事な筆づかい 心なごませるかわいい動物たちも
まずは梅の季節の太宰府にピッタリの作品をご紹介しましょう
『牛図』(図②)は、墨の濃淡だけで体の立体感を表現していて、穏やかな眼差しの目が実に印象的です。下の白い部分には雲母を使い、黒い牛の姿を一層引き立てています。展示では、この絵は掛け軸に仕立てられていて、表装には梅の枝が描かれています。「牛と梅」は菅原道真に通じます。展覧会の会期は、ちょうど太宰府天満宮の梅が見頃です。
長沢芦雪(1754~1799)は、江戸時代の京都で活躍した絵師で、円山応挙に師事し写生の大切さを学びました。代表作のひとつが、重要文化財『虎図(部分)』(図①)です。本州最南端・和歌山県串本町の無量寺の襖絵として、龍とセットで描かれました。宝永4年(1707)の大津波から再建を果たした寺の求めで、天明6年(1786)に応挙の代理としてこの地に赴いた芦雪は、10か月の滞在期間に270点もの作品を残しました。6面の襖に描いた3m余りの虎ですが、実物は見たことがなかったに違いありません。雄々しさとともに、猫のような愛嬌を感じさせるところも芦雪の魅力です。
この時代、日本列島は浅間山が大噴火して飢饉が頻発、大火も相次ぎ、一揆や打ち壊しが横行していました。応挙の一門が腕を振るうようになったきっかけも、京都の市街地の大半を失った天明の大火(1788)の復興事業でした。
芦雪は実際に見たであろう大火事も描いています。当時、奈良東大寺の大仏を超える日本一の高さを誇った大仏を安置した京都方広寺大仏殿が、寛政10年(1798)に雷で焼失します。その様子を『方広寺大仏殿炎上図』(図③)は、高々とあがる火柱と飛び散る大きな火の粉でリアルに表現しています。現代であれば、報道写真家のセンスでしょうか。
子犬をイキイキと描いた狗児図も人気で、心温まるかわいい表現からは度重なる災害を経験した心の優しさがにじみ出ているように思います。
今回は師の応挙や伊藤若冲の作品もあわせて展示されます。天才絵師たちの筆さばきをまとめて鑑賞できる貴重な機会をお見逃しなく。
※会期中、展示替えがあります
❶重要文化財 虎図襖(部分) 長沢芦雪筆 江戸時代 天明6年(1786)
和歌山 無量寺・串本応挙芦雪館 前期(2月6日~3月3日)
❷牛図 長沢芦雪筆 江戸時代 18世紀 鐡齋堂
後期(3月5日~3月31日)
❸方広寺大仏殿炎上図 長沢芦雪筆 江戸時代 寛政10年(1798)
画像提供:東京国立博物館
Image:TNM Image Archives 後期(3月5日~3月31日)
繁竹治顕
元NHK記者。’93年全米オープンゴルフ、’94年リレハンメル冬季五輪、2000年シドニー五輪などを取材。福岡放送局広報事業部長、副局長。現在、九州国立博物館振興財団専務理事。
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■九州国立博物館
特別展「生誕270年 長沢芦雪」-若沖、応挙につづく天才画家-
2月6日(火)~3月31日(日)
●一 般 2,000円(1,800円)
●高大生 1,000円(800円)
●小中学生 600円(400円)
休館日/毎週月曜日(2月12日
(月・振休)は開館、13日(火)は休館)
☎050・5542・8600(ハローダイヤル)