美術工芸品は郷土のために役立てるべき!市民の文化遺産の歩みをたどる
親の遺品をどうするか。現代人は思い出と保管場所を秤にかけて思案します。長い歴史をもつ大家ともなればことは重大です。
左の写真の国宝『圧切長谷部』は、黒田家の興隆を物語る名刀です。織田信長も手にしたといわれ、戦国時代に天才軍師と呼ばれた官兵衛が受領しました。息子で福岡藩の初代藩主となった長政は関ケ原の戦いで活躍。親子ゆかりの武具や古文書は、草創期の黒田家の歴史遺産です。こうした品々を子孫に伝え残すため、3代藩主光之の時代に「黒田家重宝故実」がまとめられます。
その2世紀後。明治維新で武家社会がなくなり、華族制度に移行します。福岡を去り東京に居を構えた黒田家は、公爵に次ぐ2番目の位・侯爵に列せられました。時代の変化にあわせるように、「重宝」にかわる「家宝」が新たに定められます。対象は絵画や茶道具などさまざまな文化財に広がりました。古代日本の成り立ちに関わる国宝の金印『漢委奴国王』も、この時「家宝」として記載されます。
ところが昭和になると、その「家宝」の整理が始まります。写真の重要文化財『清拙正澄墨蹟』は、鎌倉時代に中国から訪れた禅僧の書跡で、「電力の鬼」と呼ばれた松永安左エ門が引き取りました。更に敗戦で華族制度が廃止され、「家宝」の譲渡・売却が続きます。昭和になって売られた家宝は、多数にわたるといわれます。こうした譲渡や売却には、安川敬一郎や石橋正二郎、出光佐三といった福岡出身の実業家も関与しました。
黒田家と地域との深い縁は、長政から14代目の長禮が残した「黒田家什宝は郷土との関連において役立てるべき」との言葉に現れています。残ったコレクションは、1978年に福岡市に寄贈され市民の宝になりました。現在は福岡市の博物館、美術館で身近に鑑賞できます。折しも長政が1623年8月4日に亡くなって400年。市民の文化遺産の足跡をたどってみてはいかがでしょうか。
国宝 刀 名物「圧切長谷部」 (福岡市博物館所蔵)
重文 「清拙正澄墨蹟」 与元中別称偈 (福岡市美術館所蔵)
国宝 金印 「漢委奴国王」 (福岡市博物館所蔵)
※共通観覧券で常設展示室で観覧できます。
繁竹治顕
元NHK記者。’93年全米オープンゴルフ、’94年リレハンメル冬季五輪、2000年シドニー五輪などを取材。福岡放送局広報事業部長、副局長。現在、九州国立博物館振興財団専務理事。
福岡近郊博物館・美術館のスケジュール
※( )内の料金は、特別・前売り・団体料金、詳細はお問合せください
■九州国立博物館
特集展示 うるわしき祈りの美-高麗・朝鮮時代の仏教美術-
9月5日(火)~10月15日(日)
●一 般 700円
●大学生 350円
●高校生以下・満70歳以上 無料
休館日/月曜(9月18日・10月9日は開館、9月19日と10月10日は休館)
☎050・5542・8600(ハローダイヤル)
■福岡市博物館
特別展 黒田長政没後四〇〇年 黒田侯爵家の名品 知られざる黒田家「家宝」の近代史
9月15日(金)~11月5日(日)
●一 般 1,600円(1,400円)
●高大生 1,200円(1,000円)
●小中学生 500円(300円)
休館日/月曜日(9月18日・10月9日は開館、9月19日・10月10日は休館)
☎092・711・5491
■筑前町立大刀洗平和記念館
企画展「空戦漫画の金字塔滝沢聖峰空戦漫画展~精緻な描写に宿る人間ドラマ~」
〜10月31日(火)
●一 般 600円(500円)
●高校生 500円(400円)
●小中学生 令和5年4月1日~令和6年3月31日の期間無料
休館日/企画展中無休
☎0946・23・1227
■久留米市美術館
顕神の夢 -幻視の表現者- 村山槐多、関根正二から現代まで
関根正二 《三星》 1919年
東京国立近代美術館蔵
~10月15日(日)
●一 般 1,000円(800円)
●65歳以上 700円(500円)
●大学生 500円(300円)
●高校生以下 無料
休館日/月曜日(9月18日・10月9日は開館) ☎0942・39・1131
■福岡市美術館
日本の巨大ロボット群像-巨大ロボットアニメ、そのデザインと映像表現-
9月9日(土)~11月12日(日)
●一 般 1,600円
●高大生 800円
●小中学生 500円
休館日/月曜日(9月18日・10月9日は開館、9月19日・10月10日は休館)
☎092・714・6051