日本の陶磁器文化の源流をたどる油滴天目の国宝と重要文化財を並べて公開
戦国時代の武将たちには、一国の値段に匹敵する高級茶器を追い求めたという逸話がいくつも残っています。
その象徴ともいえる一品が左の写真の国宝『油滴天目(ゆてきてんもく)』です。高さ7センチほどの茶わんながら、黒い地肌に油の滴をちりばめたような神秘的な模様が、太閤秀吉をはじめ名だたる戦国武将たちを魅了してきました。
12~13世紀ごろに茶葉の産地だった中国の天目山周辺の寺で使われた茶器で、九州国立博物館も重要文化財の「油滴天目」を所蔵しています。今回初めて国宝と重要文化財の「油滴天目」を並べて展示するので、じっくりと見比べながら鑑賞できます。また、本物そっくりの茶わん型のコントローラーを動かして、実物の8K高精彩画像をさまざまな角度から観察できる体験型コーナーも見どころといえます。
唐三彩をはじめ、歴代中国の陶磁器の中で、高い技術を誇る窯が景徳鎮です。写真の白地に青い文様を描いた鮮やかな大皿は14世紀に作られた重要文化財『青花牡丹唐草文盤(せいかぼたんからくさもんばん)』です。青いコバルト顔料は、中近東からもたらされました。こうして完成した青花磁器は、逆にイスラム商人などの手で西へと運ばれ、景徳鎮の名が世界に知れ渡ります。
中国陶磁の技術は、東にも伝わりました。深みのあるヒスイ色の『青磁陽刻菊花文輪花形碗(せいじようこくきっかもんりんかがたわん)』は、朝鮮半島で焼かれた高麗青磁です。中国・宋時代の青磁の技術をもとに、独自の色合いや模様を発展させ、12世紀には中国をしのぐほどになりました。中国、朝鮮半島で育まれた陶磁器文化は、時代を超えて日本にも大きな影響をもたらします。
展示の中心となっている安宅コレクションは、かつての大手総合商社・安宅(あたか)産業が収集したものです。石油危機の中で、安宅産業が破たんに至る姿は、日本新聞協会賞を受賞したNHK特集「ある総合商社の挫折」(1977年放送)で描かれました。そのコレクションを基に1982年に開館したのが大阪市立東洋陶磁美術館で、世界的にも高い評価を受けています。
戦国武将から現代企業まで、その存在をも揺るがしてきた陶磁器の“魔力”を思わずにはいられません。
繁竹治顕
元NHK記者。’93年全米オープンゴルフ、’94年リレハンメル冬季五輪、2000年シドニー五輪などを取材。福岡放送局広報事業部長、副局長。現在、九州国立博物館振興財団専務理事。
国宝 油滴天目
中国・建窯 南宋時代 12-13世紀
大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)
撮影:六田知弘氏
重要文化財 青花牡丹唐草文盤
中国・景徳鎮窯 元時代 14世紀
大阪市立東洋陶磁美術館(東畑謙三氏寄贈)
撮影:六田知弘氏
青磁陽刻菊花文輪花形碗
韓国 高麗時代 12世紀
大阪市立東洋陶磁美術館(住友グループ寄贈/安宅コレクション)
撮影:六田知弘氏
福岡近郊博物館・美術館のスケジュール
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■九州国立博物館
特別展 憧れの東洋陶磁 -大阪市立東洋陶磁美術館の至宝
7月11日(火)~9月3日(日)
●一般…1,700円(1,500円)
●高大生…1,300円(1,100円)
●小中生…900円(700円)
休館日/月曜、7月18日(火)休館
※ただし7月17日(月・祝)、8月14日(月)は開館
☎050・5542・8600(ハローダイヤル)