“宝の山”から発掘された数々の写真 時を超えて蘇るニューヨークの街角
写真。フェイク情報が氾濫する今の時代、“真を写す”ことが問われています。
ソール・ライターは1950年代からアメリカでファッション・カメラマンとして活躍しました。戦後の繁栄もあって、ニューヨークはパリを凌ぐ流行の最先端都市。そんな街で、ソール・ライターがレンズを向けたのは、人々の日常の姿でした。1980年代に表舞台から退きましたが、21世紀になって、残されていた作品が世界的な反響を呼びます。
左上の『足跡』は積もった雪と赤い傘のコントラストが鮮やかな代表作の一枚です。この頃のカメラはシャッターを押すだけの全自動と違い、シャッタースピードと絞りを操作し、ピントを合わせるという手わざなしには撮れません。窓から見た光景を瞬時に捉えた、カメラマンの技量を物語るワンカットです。
その下に紹介した『ハーパーズバザー』は、車に寄りかかるモデルの女性が写っていますが、右半分は運ばれる板で隠れています。大胆な構図は、好んでいた日本の浮世絵の影響もあると見られています。「ハーパーズバザー」は100年以上の歴史を持つ世界有数のファッション雑誌の名前です。クライアントの注文に応じるファッション雑誌ではなく、撮りたいものを自由に撮影したいという欲求が、商業写真からの離脱を促しました。
最後の『帽子』はちょっとボケたイメージです。写っている人物は、雨に濡れた窓の向こうに立っています。窓ガラスの雨粒は鮮明です。
カラー写真をプリントすることが技術的に難しく、また高価だった時代に、ソール・ライターが多用したのはスライド用のフィルムでした。スライドの方が発色がきれいだったからです。題名の横に「発色現像方式」「銀色素漂白方式」とあるのは、現像やプリントの技法です。
現像も焼き付けも不要で加工も伝送も簡単なデジタル社会のただ中にいると、ソール・ライターのまなざしは、一瞬を切り取る確かさを教えてくれるように思います。
《足跡》1950年頃、発色現像方式印画
ⒸSaul Leiter Foundation
『ハーパーズ バザー』
1959年2月号、銀色素漂白方式印画
ⒸSaul Leiter Foundation
《帽子》1960年頃、発色現像方式印画
ⒸSaul Leiter Foundation
繁竹治顕 元NHK記者。’93年全米オープンゴルフ、’94年リレハンメル冬季五輪、2000年シドニー五輪などを取材。福岡放送局広報事業部長、副局長。現在、九州国立博物館振興財団専務理事。
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■九州国立博物館
特集展示 種子島 ‐風と波が育んだ歴史‐
大隅国熊毛郡
種子嶋沿海図
江戸時代 19世紀
京都大学附属図書館
12月13日(火)~2023年2月12日(日)
●一 般 700円
●大学生 350円
休館日/月曜(年末(12月24日〜
31日)、1月10日)(1月2日、9日は開館)
☎050・5542・8600(ハローダイヤル)
■久留米市美術館
生誕140年 ふたつの旅 青木繁×坂本繁二郎
青木繁《海の幸》1904年
石橋財団アーティゾン美術館蔵
重要文化財
~2023年1月22日(日)
●一 般 1,000円(800円)
●65歳以上 700円(500円)
●大学生 500円(300円)
●高校生以下 無料
休館日:月曜(1月2日、9日は開館)
年末年始(12月29日 ~1月1日)
※会期中紙作品を中心に展示替え
あり☎0942・39・1131