大竹しのぶさん演じる名作『女の一生』
去る3月に舞台『ピアフ』を熱演し、福岡の演劇ファンを魅了した大竹しのぶさんが再び博多座に帰ってきます。演目は森本薫原作の『女の一生』。終戦間際の昭和20年に初演を行い、大女優・杉村春子が947回も主演をつとめた不朽の名作です。
主人公は戦争により孤児となった少女、布引けい。不思議な縁から、裕福な貿易商である堤家に拾われ、次第に堤家の次男とひかれ合うようになります。しかし、彼女の働きぶりを買った堤家の母・しずは長男との結婚を願います。けいは堤家への恩義から長男と結婚し、堤家の人間として家を支えていくのでした―。
大竹さんが本作に出演するのは前回の2020年東京公演に続き2度目、どちらも主人公のけいを演じています。
「前回は東京の後に京都でも上演する予定でしたが、新型コロナの影響で中止せざるを得なくなりました。2年越しに再演が決まり、今回は博多座にも行くことができるようになりました」
2年前と比べて変化はあるのでしょうか?
「コロナ禍が始まったばかりの前回は『稽古が終わったら、すぐに稽古場を出なくてはいけないなんて、悲しいな』とか『みんなでご飯を一緒に食べたいなぁ』とか稽古時間以外でもコミュニケーションを取りたいと思っていました。でもそれが2年続いた今は、限られた時間しか一緒にいられないことが分かっているので、とにかく最初から心を開放してみんなと心を通わせて、一つの芝居を作っていきたいと思っています」
撮影/門嶋淳矢
多くの人が共感できる主人公の生き様
大竹さん演じる主人公の布引けいとは、どんな女性なのでしょうか?
「彼女は自分を拾ってくれた女将さんから言われた人と結婚して、本心を隠したまま一生を過ごすのですが、有名なせりふで『誰が選んでくれたものでもない。自分で選んで歩きだした道ですもの』というのがあるのですが、女って強いなって思いますね。必死になって生きて、最後にこれでよかったのだと思おうとする人生、後悔しない生き方はすごいなと。少女から老年まで演じます。観る方によって感じ方はそれぞれだと思いますが、幅広い世代の方に観て頂けます」
本作が長年愛され続ける理由も、そんな生き方にあるのだと大竹さんは語ります。
「この役を演じて、一生懸命生きるということ、自分の考えを自分で把握しながら生きるということがいかに大事なのかと感じました。布引けいという女性は、思い通りの人生ではないかもしれないけれど、自分を曲げないで生きてきたと思うんですね。与えられた状況を受け入れながらも強く生きて、後悔しないという道を常に歩もうと努力してきた。だから余計寂しいし、悲しい部分もあるけれど、最後のシーンは本当にホッとするというか…。人生って素晴らしいものだ、いくつになっても前を向いて生きていこうと思えるのです」
心に残る宝石のようなセリフが散りばめられている作品です。客席でけいの生き様を観てみませんか。
舞台『女の一生』
公演期間/11月18日(金)~30日(水)
公演場所/博多座(福岡市博多区下川端町2-1)
山崎智子=文