手紙をめぐる物語、『ラストレター』公開
「私の役って、うっかり間違ってヒロインになっちゃった感じがします」
そう言って笑うのは、映画『ラストレター』の主演をつとめた、松たか子さん。
映画は、松さん演じる主人公・裕里の姉・未咲の葬儀の日から始まる。裕里は姪である未咲の娘・鮎美から、未咲宛の同窓会の案内と、未咲が遺した鮎美宛の手紙の存在を知らされる。姉の死を知らせるために同窓会に赴いた裕里は、ひょんなことから未咲を演じるはめに。そこで、かつて裕里が未咲のフリをしてラブレターの返事を書いていた初恋の相手、鏡史郎と再会。鏡史郎からの名刺を受け取った裕里は、自分の住所を伏せたまま一方的な手紙を書いて―。
「軽い気持ちだったのかな。自分が姉を名乗れば丸く収まると思ってたのが、記憶を引きずっていた鏡史郎さんの人生に影響したんだってことに、ハッて気づいちゃう。でも、これが最初からちゃんと名乗っていたら、ここまでドラマは広がらない。嘘をつくことはいいことではないですけど、決着をつけられていなかった人の助けになったり。彼女の嘘は役に立ったのかなと思います」
物語には人の死や、それに至った理由、そして嘘の手紙が表れる。だが、裕里が纏う空気はどこか爽やかで、ときにはコミカルに感じることも。
「そう見せようという意気込みはなかったんですけど、結果そう見えちゃう。裕里はノリが軽いというか、嘘をついてちょっと道を外しても引き返さないで行っちゃう。でも、私にこの役のオファーがあったということは、ジメっとした感じになるのではなくて、そういう方向でいいのかなというのはありました」
ⓒ2020「ラストレター」製作委員会
ヒロインらしくない主人公が繋ぐもの
「自分自身が主婦とか母親になって、自分の名前がなくなることが増えたんですよね」と松さんは、自身の経験と裕里を重ねて語る。
「でも、裕里さんは今回のことでふっと自分自身に気づくんです。誰々ちゃんのママや奥さんではない、裕里という自分に。学生時代でさえ、自分の名前を自分から捨ててきたような子なんですけど、大人になって自分に戻れたのかな。ヒロインとしていいのかわからないんですけど、皆さんに面白がってもらえたら嬉しいですね。でも、やっぱりこの裕里というのは、皆の記憶の中にある絶対的ヒロイン“遠野未咲”という存在あってこそのキャラクターであると思います」
裕里は確かに主人公であり、つまりヒロインであるのだが、この映画の世界でのヒロインは既にこの世にはいない未咲。だからこそ、切なく、どこか結ばれなかった青春時代のような淡さ、儚さがある。それを裕里が狂言回しのように、物語を繋ぎ、未咲の大切だった人と人を繋いでいく。そして、タイトルの『ラストレター』とは、何を指すのか?何が書かれているのかー。それを知ったとき、きっとあなたは涙する。
映画『ラストレター』
監督・原作・脚本・編集:岩井俊二
出演:松たか子、広瀬すず、神木隆之介、福山雅治
配給:東宝
◎TOHOシネマズ天神・ソラリア館、T・ジョイ博多、ユナイテッド・シネマ福岡ももち、ユナイテッド・シネマキャナルシティ13 他にて公開中