映画『羊と鋼の森』
原作:宮下奈都 監督:橋本光二郎 脚本:金子ありさ
出演:山崎賢人、鈴木亮平、三浦友和 ほか
◎TOHOシネマズ天神・ソラリア館、ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13、T・ジョイ博多 ほかにて公開中
五感で味わう上質なものがたり
美しい旋律にうっとりと目を閉じると、そこに豊かな風景が浮かんでくることはないだろうか。深い森、風に揺れる木々、ときに雪がはらはらと舞う。心の奥深いところを揺さぶられ、思わず涙が溢れるような…『羊と鋼の森』はまさに、そんな一作。観るものの五感に訴えかけてくる上質なものがたりである。
主人公・外村直樹(山崎賢人)は、ピアノのただ一音に、森の息吹を感じ、調律師の世界に魅せられていく。その音の主であり、外村を導く憧れの調律師・板鳥宗一郎を演じるのが今月の表紙の人・三浦友和さんだ。
映画化が決まる前から原作を読んでいたという三浦さんに印象をうかがった。
「『こんな感じの音色かな?』と音を感じさせるような想像力をかき立てられるような、そういうことをとても意識して書かれた作品だと感じました。読んでいると文字の間から音が響いてくるかのような凄さのある、すばらしい小説です。小説を映画化すると、どうしても省略しなければならないところがあって、原作と変わってしまう場合もあるのですが、本作では原作の良さが全て台本に載っているなと、僕は感じました」
板鳥は、外村の人生を導く重要な役どころでありながら、実は登場シーンやセリフも多くはなく、それだけに難しい役。職人としての技量や厳しさと優しさを醸し出せる役者として、製作陣から出演を熱望されたのが三浦さんだった。オファーを快諾したという三浦さんに心境を聞いてみると
「原作を読んだときに、自分の中に板鳥のイメージがなかったので驚きました。もっと繊細で華奢な人をイメージしていたので。僕とは程遠いですからね(笑)。なぜオファーいただいたかはわかりませんが、本がおもしろかったので、出演できるのはうれしかったです」と柔らかな笑顔が返ってきた。
北海道の映像美と極上の旋律に誘われて
素晴らしい映像美もまた、本作の魅力のひとつ。邦画では滅多に使用されないという最高級のスーパーアナモフィックスレンズで撮影した、北海道の美しい風景や雪の結晶、ダイヤモンドダストなどは、ぜひ映画館の大スクリーンで味わっていただきたい。
「通常はCGに逃げてしまいがちなシーンも監督がアナログにこだわって丁寧に撮っていましたから、アナログな方法でしか出せないものがしっかり映し出されていると思います。ワンカットずつ時間をかけて、ゆったりと細やかで。久しぶりに昔ながらの映画らしい現場という感じがしました」と三浦さんは語る。
映像やストーリーとオーバーラップする音楽もまた、たっぷりと楽しんで欲しい。劇中で演奏される11曲のピアノ曲はもちろん、聞き逃せないのがエンディング・テーマだ。共に世界的音楽家である久石譲が作曲、辻井伸行のピアノ演奏により、劇場はさながらコンサートホールに。まさにスタンディングオベーションを送りたい作品である。
西岡裕子=文
text:Hiroko Nishioka