九州出身の二人が贈る抱腹絶倒の二本立て
開場二十周年を迎える博多座の五月公演は「武田鉄矢・コロッケ特別公演」。お二人の共演とあっては、もう、いやが上にも期待が高まる。第一部は時代劇の金字塔「水戸黄門」。福岡を舞台に武田さん演じるホンモノとコロッケさん演じるニセモノが、笑いあり涙ありの舞台を繰り広げる。第二部では海援隊も交えての「スペシャルオン・ステージ」。武田さんのライブ&爆笑トークにコロッケさんのデフォルメの効いたものまねが炸裂。テレビでは絶対観ることのできない舞台ならではのお楽しみが満載だ。
「憧れの武田さんと一緒に舞台に立てるということで、いつも以上に気合いが入っています」というコロッケさんのコメントを受けて、「エンターテイナーとして大きな力を持つ、コロッケという共演者に恵まれて安心です。あまり深く考え込まずに、力を抜きながらも、力いっぱいやろうという心構えです」と武田さん。
武田さんは福岡、コロッケさんは熊本と、九州出身のお二人にとって里帰り公演となるだけに地元ネタも飛び出すのでは?
「そうですね。コロッケは熊本を見ながら、私は博多を向きながら演じたらおもしろいかなと考えています。タッグを組むべきところではしっかり手を握りますが、もう一方の手ではビンタやら拳骨やら、いろいろ、ね」と武田さんはコロッケさんに笑顔で目くばせする。はてさて、何が飛び出すやら。
ちょっと人間くさい黄門様を演ってみたい
武田さんは歴史上の人物を演じる際には必ず史実を紐解くという。
「想像上の人物ならいいけれど、実在した人の場合は幽霊になって『全然違うよ!』って出てこられたら嫌だから(笑)。そんなわけで、ちょこっと勉強したところによれば、水戸光圀は博識で頭がよくて剣の腕もたつ人だったようです。60代後半で家臣を自らお手討ちにしています。それぐらいの気性の激しさを持っていたというのは、さすが家康の孫だけのことはあります。そんな水戸黄門像に対して、歴代の黄門役の中でいちばんイメージに近い気がするのは石坂浩二さんかなぁ。だけど、私が演じるとしたら少し人間くさい、老いのみっともなさみたいなものも含めて演じてみたいと思っています」と武田さん。
ここで、お二人に質問してみた。
“老い”とは?
「若い頃は自分がどう見えるかを考えるでしょ。そういうことを一切忘れて、自分は自分でしかないって割り切れるようになるのが老いってことかな。これが意外と難しい。そうはなりたくないとか、俺は覚えているぞとか、ね。いやぁ、老いはなかなか手ごわいですよ」
70歳を迎えた武田さんの言葉に、60歳目前のコロッケさんが応える。
「僕は、老いてもずっとものまね芸人であり続けたいと思っているので、70歳過ぎた頃にやる『ものまねの声と顔を間違える』というネタをもう作っているんです。そろそろ間違えていい年齢ですからね」
「いちいち覚えているうちはダメなんだよね」と武田さん。
「大事なことこそ忘れた方がいいですね」とコロッケさん。
「そうそう。それが僕たちの“老い”でしょうかね」
お二人の掛け合いが笑顔で落着したところで、話を芝居に戻そう。
黄門様一行の今回の旅の目的は、キリシタンの疑いをかけられた黒田家の内情を探ること。そこへ初恋の人と再会を果たすというシーンも織り込まれ、これまで描かれることのなかった黄門様の恋心がチラリ。
さらに、コロッケさん扮する旅芸人がニセ黄門になりすまして絡んでくるからややこしい。事態は思わぬ方向へ。BSテレビで六代目水戸黄門を演じている武田さんと、ものまね界の重鎮コロッケさんのW黄門様対決に乞うご期待。
コロッケを封印、役者、瀧川広志として
「『笑いに来たのに、コロッケで泣いた』っていうのが目標です。僕は何十年も金八先生を演じましたが、みなさんが何に感動して泣くのかというと、実は歴代の教え子たちに対してなんです。だから、水戸黄門ではコロッケで泣かせたい。笑いに来たお客様を泣かせるためにはサービスを二つ重ねないとできない、かなりの荒技・力技。コロッケとだったら、それができそうな気がするんです。で、最後に『あ、武田もいたっけ?』というくらいでいい(笑)」
「武田さんは役者だけでなく演出もなさる方なので、今回はそれに乗っかって何か新しい自分が出せたら僕にとっても転機になりますし、お役に立てたらうれしいですね。ただ芝居の中ではコロッケの顔は封印して、(本名の)瀧川広志として、ホロリとくるシーンを演じられたらいいなと思っています」
武田さんの言葉に、コロッケさんの声が重なった。
昭和を歌で振り返る博多座がひとつに
第二部の「スペシャルオン・ステージ」でも、サービス精神旺盛なお二人のこと、大いに盛り上げてくれるはずだ。
「今回は昭和を歌で振り返ってみようかなと思っているんです。僕の音楽人生の原点は昭和の歌謡曲。コロッケにとっても重なる部分があるのではないでしょうか。昭和の歌は一度聴いたら忘れない。その歌を聴くと自分の過ごした時代の匂いをふっと思い出すでしょう?そこで、僕はラジオで聞いた歌を、コロッケはテレビで覚えた歌を歌ってみようかなと。それを聴いているお客様の唇もいつの間にか動いて…という歌謡ショーをやりたいと考えています」
そんな武田さんの言葉にコロッケさんもうなづく。
「そう。実はみなさん、歌いたいんだと思うんです。口ずさむ声と声が集まって、気がつけば博多座が一体となって大合唱になっていく。そんなショーをみなさんで作っていけたら、きっと楽しいですよね」
武田さんとコロッケさん、それに館内いっぱいのお客様とひとつになる、すばらしい体験をぜひ博多座で。
西岡裕子=文
text:Hiroko Nishioka