最澄が礎を築いた天台宗の姿に迫る 神仏が融合した九州の山岳信仰も紹介
すべての人が仏になれる。とかく住みにくい人の世で、伝教大師・最澄のこの教えは、大きな光明でした。
最澄の姿を今に伝えるのが、左の写真の重要文化財『伝教大師(でんぎょうだいし)(最澄(さいちょう))坐像(ざぞう)』です。高さ66センチほどの一木造りの像は、鎌倉時代に彫られた現存最古の彫像です。ふっくらした表情は、厳しい修行で培われた穏やかさが漂います。頭巾姿は、弁慶や僧兵を思い浮かべますが、天台宗では高位の僧にだけ許されていました。
最澄は九州にも深いかかわりがあります。唐への渡航を待つ1年余りの間、九州北部の山を巡り、宝満山の寺では航海の安全を祈って仏像を制作しました。中国の天台山などで学んで帰国すると、宇佐八幡宮にお礼参りもしています。比叡山を拠点に全国に天台宗を広め、今から1200年前の822年に亡くなりました。
その後は弟子たちが山岳信仰との融和をはかりながら、天台宗の勢力を拡大しました。九州での修行の場となったのが国東半島の六郷満山です。写真の重要文化財『太郎天及(たろうてんおよ)び二童子立像(にどうじりゅうぞう)』は当時この地域を統括した長安寺の所蔵で、天台密教と山岳信仰とが結びついた独特の仏教文化がうかがえます。中央の丸い顔の太郎天は、修験者を守る不動明王が姿を変えたもので、いかめしい不動明王が可愛らしく変身しています。
今回お勧めの掘り出し物が『菩薩遊戯坐像(ぼさつゆげざぞう)(伝如意輪観音)(でんにょいりんかんのん)』です。愛媛県の寺で60年に一度公開されてきた秘仏で、四国を出るのは初めてです。ごつごつした岩に腰を掛けてくつろぐ姿は、凛々しくも艶めかしさが漂います。運慶快慶の流れを汲む鎌倉時代の慶派仏師の作と考えられ、これほどの仏像が地方に残っていたことがわかったのは、最近の調査研究の大きな成果です。
会場では、10年がかりの大改修が進んでいる比叡山の国宝・根本中堂(こんぽんちゅうどう)の一部も再現され、最澄が灯した「不滅の法灯」も体感できます。心が癒される特別展です。
重要文化財 伝教大師(最澄)坐像
鎌倉時代・貞応3年(1224) 滋賀・観音寺
重要文化財 太郎天及びニ童子立像
平安時代・大治5年(1130) 大分・長安寺
画像提供:奈良国立博物館(撮影:森村欣司)
菩薩遊戯坐像(伝如意輪観音)
鎌倉時代・13世紀 愛媛・等妙寺
繁竹治顕
元NHK記者。’93年全米オープンゴルフ、’94年リレハンメル冬季五輪、2000年シドニー五輪などを取材。福岡放送局広報事業部長、副局長。現在、九州国立博物館振興財団専務理事。
福岡近郊博物館・美術館のスケジュール
※( )内の料金は、特別・前売り・団体料金、詳細はお問合せください
■九州国立博物館
特別展 伝教大師1200年大遠忌記念 最澄と天台宗のすべて
2022年2月8日(火)~ 3月21日(月祝)
●一 般 1,900円(1,700円)
●高大生 1,200円(1,000円)
●小中生 800円(600円)
休館日/月曜(3月21日は開館)
☎050・5542・8600(ハローダイヤル)
■福岡市博物館
創業200周年記念 フィンレイソン展 ‐フィンランドの暮らしに愛され続けた テキスタイル‐
Finlayson® ⒸFinlayson Oy
~ 2022年2月27日(日)
●一 般 1,300円
●高大生 1,000円
●小中生 600円
休館日/月曜
事務局(東映) ☎092・532・1081
■九州歴史資料館
企画展 史跡が紡ぐ福岡の歴史 ~新規国指定史跡~
~2022年4月3日(日)
●入場無料(常設展等は要観覧料)
休館日/月曜(祝日・振替休日の
場合はその翌日)
☎0942・75・9575
■福岡市美術館
ゴッホ展 響きあう魂 ヘレーネとフィンセント
~2022年2月13日(日)
●一 般 2,000円
●高大生 1,300円
●小中生 800円
休館日/月曜
☎092・714・6051
佐賀県立美術館
画業50周年 女性が輝く未来 一瞬間の“煌めき” 中島潔 令和の心を女性に描く
~2022年2月13日(日)
●一 般 平日1,200円
土日祝1,400円
●中高生 平日900円
土日祝1,000円
●小学生 平日500円
土日祝600円
休館日/月曜 ☎0952・28・2151
●新型コロナウィルス感染拡大防止のため、休館・展覧会が中止・延期される場合があります。
お出かけ前に各施設のホームページなどで確認してください。