王さんって、どんな人? しばしば友人・知人にそう聞かれます。友人どころか、他球団の選手からも。そんな時、王さんがしばしば口にする、こういう言葉を紹介します。
「君たちは教科書に載っているような俺しか知らないだろ。でも、実はこういう男なんです。ざ~んね~んで~した」
努力。厳格。品行方正。王さんには、どこか□のイメージがあります。サインの隣に記す座右の銘も「氣力」です。そこに加えて柔和、優しい、気配りといった○のイメージも。もちろん、□も○も間違いではありません。
例えば1994年10月のホークス監督就任会見を終えた直後。大勢の記者たちのぶら下がり取材に答えつつ2階から1階へと降りる王さんは、エスカレーターの前でふと立ち止まり、階段へと向きを変えました。狭いエスカレーターでは、前後に1人ずつしか付けません。それをサッと察知して、より多くの記者が近づける階段を選んだのです。教科書で知る通りの○。それをさらっとやってのける姿に、初めて会ったその日にハートをつかまれました。
一方で、こんな言葉も忘れられません。「国民栄誉賞は重いですか」と聞かれると、ウ~ンとうなった後、低く吐き出すように「重いねえ…」。さらに、こう続けました。「立ちションベンもできゃしねえ」
国民栄誉賞を「立ちションもできなくなる」と辞退したのは阪急の福本豊さんですが、第1号の受賞者は実際にできなくなったというのです。もっとも、王さんなら賞をもらってなくてもできないでしょうが。
自他ともに認めるせっかちで、遠回しな質問に「君はいったい何を聞きたいんだ」とイラ立ち、飲食店で注文したビールが来るのが遅いと「いつまで待たせる気だ」と次第に目つきが険しくなっていきます。こうした教科書に載っていない少しとがった△の王さんは、むしろ教科書に載る□や○の王さんより魅力的です。
なにより、節を付けたような「ざ~んね~んで~した」やボソッともらした「立ちションベンもできゃしねえ」といった最後に付け加える一言に△が垣間見えておもしろい。□や○だけではない、やんちゃな側面にも触れられたのは記者冥利に尽きるというか、僥倖というか、とにかく私にとって◎なのです。
ホークス監督就任後、高知秋季キャンプを視察する王監督=1994年10月
さて、2023年8月号からお届けしてきた「お目よごし」もこれにて終了。ご愛読、誠にありがとうございました。最初と最後は王貞治さんにご登場いただきましたが、ほかにもまだまだ秘めた裏話がたくさんあったのに。ざ~んね~んで~した…なんてね。
文 富永博嗣
西日本新聞社で30数年間、スポーツ報道に携わる。ホークスなどプロ野球球団のほか様々な競技を取材。2023年3月に定年を迎え、現在は脳活新聞編集長。