久留米が生んだドイツ語教師の知られざる交流 激動の時代に培われた美へのまなざしを探る
ガチな存在! 現代の若者言葉で3人の関係を表現するとこうなるのでしょうか。
菅虎雄は、1864(元治元)年に今の久留米市城南町で生まれ、帝国大学(今の東京大)ドイツ文学科を卒業、旧制一高や熊本の五高でドイツ語教師を務めました。
芥川龍之介との関係を象徴するのが、左の写真『羅生門』です。表紙の題字を書いたのが一高時代の名物教師だった菅でした。ドイツ語教師でありながら書の腕前も有名で、故郷久留米の高良大社の石碑や梅林寺の扁額も揮毫(きごう)しています。
菅は夏目漱石とも深いかかわりがあります。帝大の2年先輩で、漱石を松山中や五高の教師に斡旋したのも菅でした。「坊っちゃん」も「草枕」も、菅がいたからこそ生まれたといえます。病で久留米に帰省した菅を、漱石は見舞っています。漱石の墓碑銘も菅が手がけました。
漱石の小説には、イギリス留学時代に鑑賞したであろう画家・ターナーについての記述がたびたび出てきます。漱石は幼いころから絵画にも親しんでいて、自らも絵を描きました。左に紹介した『青嶂紅花図』は、桃源郷をイメージした作品といわれます。
そして学生だった若き芥川の才能を見出したのが漱石です。芥川も漱石の弟子を自任していました。漱石が亡くなるまでの1年余り、ふたりの交流をたどることができる書簡も、今回展示されます。さらには、彫刻家・清水良治の作品『蜘蛛の糸(芥川龍之介より)』のように、芥川の文学はその後の芸術表現にも多大な影響を与えました。
芥川が文壇デビューを果たした頃は、国内で大正ロマンが花開く一方で、ヨーロッパでは第1次世界大戦が勃発、人々の価値観が大きく揺れ動きます。文学、書、絵画と表現方法は違っても、3人の交流には美術への深い眼差しがありました。
近代化への上り道で、文豪たちは何を見つめていたのか。そんなことを考えさせる展覧会です。
❶芥川龍之介 『羅生門』表紙 (阿蘭陀書房、1917年)みやこ町歴史民俗博物館
❷夏目漱石 《青嶂紅花図》 1915年 岩波書店
❸清水良治 《蜘蛛の糸(芥川龍之介より)》 2004年 石川県立美術館
※会期中展示替えがあります。
繁竹治顕
元NHK記者。’93年全米オープンゴルフ、’94年リレハンメル冬季五輪、2000年シドニー五輪などを取材。福岡放送局広報事業部長、副局長。現在、九州国立博物館振興財団専務理事。
福岡近郊博物館・美術館のスケジュール
※( )内の料金は、特別・前売り・団体料金、詳細はお問合せください
■九州国立博物館
特別展 古代メキシコ マヤ、アステカ、テオティワカン
~12月10日(日)
●一 般 2,000円
●高大生 1,300円
●小中学生 900円
休館日/月曜日(ただし月曜日が祝日の場合は開館、翌日休館)
☎050・5542・8600(ハローダイヤル)
■九州歴史資料館
開館50周年記念 特別展「船原古墳とかがやく馬具の精華」
~12月3日(日)
●一 般 210円(150円)
●高大生 150円(100円)
●中学生以下、満65歳以上 無料
休館日/月曜日(ただし月曜日が祝日の場合は開館、翌日休館)
☎0942・75・9575
■久留米市美術館
芥川龍之介と美の世界二人の先達─夏目漱石、菅虎雄
10月28日(土)~2024年1月28日(日)
●一 般 1,200円(1,000円)
●65歳以上 900円(700円)
●大学生 600円(400円)
●高校生以下 無料
※会期中展示替えあり。
休館日/月曜日(ただし月曜日が祝日の場合は開館)、年末年始
☎0942・39・1131
芥川龍之介《水虎晩帰之図》1923年
山梨県立文学館 1期展示
■中冨記念くすり博物館
レーウェンフック没後300年 見えないものを見ようとして-顕微鏡が見つけた病-
~2024年2月12日(月・祝)
●一 般 300円(200円)
●高大生 200円(100円)
●小中学生 100円(50円)
休館日/月曜日(ただし月曜日が祝日の場合は開館、翌日休館)・年末年始
☎0942・84・3334
■北九州市立いのちのたび博物館
企画展 小笠原騒動 -小倉藩小笠原家と狐-
~12月10日(日)
●一 般 600円
●高大生 360円
●小中学生 240円
※小中学生は2024年3月31日まで常設展無料
休館日/会期中無休
☎093・681・1011
小笠原忠苗画像(福聚寺蔵)