印象派を魅了した衝撃の浮世絵 幻の魔除けの肉筆画を一挙初公開
幕末に向かう歯車が音を立て回り始めた時代でした。
左下の『冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏』は、葛飾北斎(1760~1849)の名を世界にとどろかせた代表作のひとつです。遠くに見える富士山に覆いかぶさるような大波、人々を乗せた船は荒海を渡り切れるのでしょうか。
この作品を制作したのは天保元年(1830)から2年頃で、北斎は既に70歳を過ぎていました。浦賀沖にアメリカのモリソン号が来航したのは天保8年(1837)、嘉永6年(1853)にはペリーが開港を求めてやってきます。波頭が砕ける“グレート・ウェーブ”は、日本に押し寄せる波乱の時代の予兆のようにも思えます。
“画狂老人”とも名乗った北斎は、数え年90歳と当時としては稀にみる長寿をまっとうしました。しかしその生涯の間、天明と天保の二度の大飢饉に大塩平八郎の乱、浅間山の噴火が発生し、庶民は塗炭の苦しみを味わいます。だからこそ平穏を願わずにはいられなかったのかも知れません。図の重要文化財『日新除魔図(宮本家本)』は、晩年の北斎が長寿を願い魔除けの意味を込めて、毎朝日課として描いた作品です。日付も入った獅子図と獅子舞などの人物図が合計219枚。これだけまとまっての展示は、今回が初めてです。古美術商だった故・坂本五郎氏から九州国立博物館に寄贈されたもので、九博以外で見ることはできません。しかもすべて撮影可という特典つきです。
墨画と対照的なのが重要文化財『二美人図』です。すらりとした体つきで首を傾げた吉原の遊女の色っぽい姿を、繊細で色鮮やかな筆使いで描いています。北斎40歳代の作品と見られ、絵師としての技量の確かさと幅の広さが見て取れます。
黒船の来航後、日本は維新への激動の時代に突入します。一方、海を渡った北斎の作品は、モネやゴッホといった印象派の画家たちに衝撃を与え、ジャポニズムが一大ブームとなりました。時代を動かす芸術の力を感じずにはいられません。
① 富嶽三十六景神奈川沖浪裏 葛飾北斎 江戸時代・天保元年~2年(1830~31)頃 大阪・和泉市久保惣記念美術館 展示期間・4/16~5/15
②【重要文化財】二美人図葛飾北斎江戸時代・享和年間(1801~04)静岡・MOA美術館 展示期間・4/16~5/15
③【重要文化財】日新除魔図(宮本家本)葛飾北斎江戸時代・天保13~14年(1842~43)九州国立博物館(坂本五郎氏寄贈)展示期間・全期間
※【前期】~5月15日(日)、【後期】5月17日(火)~6月12日(日)
前期と後期で作品の展示替えがあります。
繁竹治顕
元NHK記者。’93年全米オープンゴルフ、’94年リレハンメル冬季五輪、2000年シドニー五輪などを取材。福岡放送局広報事業部長、副局長。現在、九州国立博物館振興財団専務理事。
福岡近郊博物館・美術館のスケジュール
※( )内の料金は、特別・前売り・団体料金、詳細はお問合せください
■九州国立博物館
特別展「北斎」
会期中:展示替えあり
~6月12日(日)
●一 般 1,800円
●高大生 1,000円
●小中生 600円
休館日/月曜(5月2日(月)は開館)
☎050・5542・8600(ハローダイヤル)
■福岡市博物館
ライデン国立古代博物館所蔵 古代エジプト展
クウと家族の供養碑
Image ⒸRijksmuseum van Oudheden
(Leiden,the Netherlands)
~6月19日(日)
●一 般 1,800円
●中高生 1,200円
●小学生 600円
休館日/⽉曜
☎092・845・5011
■福岡市科学館
ノーベル賞受賞100年記念 アインシュタイン展
~5月29日(日)
●一 般 1,200円
●高校生 900円
●4歳〜中学生 700円
休館日/火曜(5月3日は開館)
☎092・731・2525
■福岡アジア美術館
アニメージュとジブリ展 一冊の雑誌からジブリは始まった
Ⓒ1984 Studio Ghibli・H
~7月10日(日)
●一 般
平日1,300円、土日祝1,500円
●中高生
平日800円、土日祝1,000円
●小学生
平日600円、土日祝800円
休館日/水曜(ただし5月4日は開館、
5月6日は休館) ☎092・711・5491
■熊本県立美術館(本館)
熊本日日新聞社創立80周年記念 印象派との出会い ―ひろしま美術館コレクション
~6月5日(日)
●一 般 1,300円(1,100円)
●大学生 1,000円(800円)
●高校生以下無料
休館日/月曜(5月2日は開館、
5月30日は「障がいのある方々のため
の鑑賞デー」として開館)
☎096・352・2111
●新型コロナウィルス感染拡大防止のため、休館・展覧会が中止・延期される場合があります。
お出かけ前に各施設のホームページなどで確認してください。