時を超えて人々を魅了 北斎の人生が映画化
Ⓒ2020 HOKUSAI MOVIE
映画『HOKUSAI』
監督/橋本一
出演/柳楽優弥、田中泯、阿部寛、永山瑛太、玉木宏 他
配給/S・D・P
◎5月28日(金)よりユナイテッド・シネマ福岡ももち、中洲大洋劇場、
TOHOシネマズ福津、シネプレックス小倉、T・ジョイ久留米 他にて公開
ゴッホやモネなど名だたる画家に影響を与え、没後172年を経た今でも世界中に熱烈なファンを持つ、葛飾北斎。90歳で命尽きるその時まで、絵に全てを懸けた彼の人生は、どんなものだったのでしょうか。知られざる北斎の生涯をひも解く映画『HOKUSAI』が公開。主役の北斎は青年期を柳楽優弥さんが、老年期を田中泯さんが演じます。
資料がほとんどなく、謎に包まれた青年期の北斎。柳楽さんは役作りについてこう話します。
「青年期については、あまり情報が残されていないこともあり、実際に撮影現場に行って、現場のロケーションなどを見てみないと、全然分からなかったんです。それでも、監督が『反骨精神や、諦めない気持ち、負けず嫌いだったということが原動力になって晩年も輝けたんじゃないか』とおっしゃっていたことがヒントになったと思います」
現場で感じた悔しさ 台本を変えて表現
北斎が生きた江戸中期から後期にかけては町人文化が花開き、歌麿や写楽といった歴史に名を遺す天才・奇才が活躍。なかなか芽が出ない若き日の北斎は葛藤し、ライバルたちの活躍に痛いほど悔しさをにじませます。写楽とのやりとりのシーンでは、北斎の気持ちを表現するため、柳楽さんは台本に書かれていた演技を変更することを提案。
「後輩にあたる写楽がみんなから称賛されているのを見て、悔しさを感じ、その勢いで写楽に対してきつく当たると、さらに大きなしっぺ返しを食らってしまうんです(笑)。写楽から言われたことに対して、北斎自身も『それは合ってるかもな』と悟ってしまったのだろうと思います。台本には言い合いの後に『座る』と書いてありましたが、そういう状況の中で座ってしまったら、気持ちが落ち着いてしまうんじゃないかと思ったんです。あのシーンは、言ってみればけんかです。立った勢いで去って行くくらいの気持ちなんじゃないかというのは、現場に入ってみて気付いたことですね」
北斎と言えば『冨嶽三十六景神奈川沖浪裏』に代表されるように海をイメージする人も多いのでは。美人画や役者絵が主流だった当時において風景、それも感じるままにデフォルメして描いた作品は人々の目をくぎ付けにします。
「海に行くシーンがあるんですが、どういうきっかけで『海が自分の得意分野なんだ』と気付いたんだろうと、監督と話していたんです。監督も実際に行ってみないと分からない、とおっしゃっていました。現場に行って海を見てみると、『人生を諦めようとしたんじゃないのか』と思ったり、『生きること』という深い境地に達したり。北斎は、そういう次元の中を彷徨っていたのではないか、ということを監督と話し合いました。ただ、それは僕たちの答えなので、正しいかどうかはわかりません。でも、そのくらい追い込まれた瞬間もあるんじゃないかということを想像しながら、監督とともに映画ならではの北斎像を作り上げていきました」
北斎の絵が持つ強さ。この映画を観ると、その理由に触れられるかもしれません。
山﨑智子=文
text:Tomoko Yamasaki