長年住み慣れた愛しのマイホームも、年齢を重ねていくにつれ心配事が増えていくもの。戸建ての場合は、階段をはじめバリアフリーに適応していない箇所が多いこと。マンションの場合は、最近ニュースでもよく聞くようになった大規模修繕工事…。これから長く快適に住み続けるためには考えなければならないことですが、初めてのことで分からないことばかり。そこで、今回は戸建てのバリアフリー工事、マンションの大規模修繕工事について専門家に話を伺いました。
戸建てバリアフリー
■老いても自立 住みやすい住まいに
階段の昇り降りなど老後に向け心配になってくる、戸建てでの生活。今の家での生活が困難になったら、施設などでの暮らしを想定している人もいるのではないでしょうか。しかし、生活スタイルを変えることは、老いた体には大きなストレスになるもの。また住み慣れた地域を離れれば、引きこもった生活になってしまうこともあります。健康寿命を延ばすためにも、できるだけ住み慣れた自宅で自立して生活する時間を長くすることが大切です。
そのために必要なことが住宅の改修。階段については階段に取り付けられる椅子型の昇降機の他、半畳ほどのスペースがあればホームエレベーターも導入可能。
戸建てに限らず、最も改修が多いのは水回り。特にトイレのドアが内開きの場合はご要注意。トイレ内で倒れた場合、倒れた人の体が邪魔になりドアを開けることができなくなってしまいます。外開きに改修するなど早めの対策を。また、居室から離れたトイレに行くことが困難になってきた場合は、部屋とトイレを近づける間取りに変更することで、家での利便性がアップ。また、ベッドサイドに設置できるトイレも開発されています。防臭性に優れ、通常よりも細い配管で設置できるため、どの部屋にも設置することが可能。このようにトイレに自力で行ける環境を整えることは、「寝たきり」を防ぎ、本格的な介護生活になることを遅らせる手助けにもなります。
握力の弱い人にとって手で握るタイプの手すりはかえって危険。その場合は、肘をのせて使う手すりを採用するなど、住む人の身体に合わせた施工をすることも欠かせません。同時に生活の補助をする訪問介護などの介護者についても、必要に応じて検討を。
■快適な温度や湿度に見えないリフォーム
自宅で健康に生活するためには、目に見えない温度・湿度を快適に保つ「見えないリフォーム」も大切。例えば、日本では家庭の浴槽で年間5000人を越える人が溺死 。この原因としては浴室と脱衣所などとの温度差によるヒートショックも大きく影響していると考えられています。浴室・脱衣所の温かさを保つリフォームや、暖房を導入することで予防することができます。同じく健康に大きな影響がある湿度については大掛かりなリフォームでなくても加湿器を導入するなどで対応可。まずはできることから住環境を改善していきましょう。
※厚生労働省「人口動態統計」
家庭における主な不慮の事故による死因
(三桁基本分類)別にみた年齢(特定階級)
別死亡数及び百分率(2018年)
■住宅改修のための補助金と減税政策
要介護認定を受けている人の場合、バリアフリーの改修内容によっては介護保険から補助金が支払われます。支給額は、支給限度基準額20万円の9割である18万円まで。ただし、要介護区分が3段階以上上昇したときや転居した場合は再度支給限度基準額が設定されます。また、2021年12月31日までにバリアフリー改修を行うと、「バリアフリー改修促進税制」による減税も。その他、福岡県や福岡市、独自の高齢者対象改修補助金もあります。
■コロナ禍で増えるバリアリフォーム
外からのウィルスを家に持ち込まないバリアのためのリフォームにも注目が集まっています。玄関周りに手洗い場を設置し、室内に入る前に手洗いができるようにすることも。また換気機能空調システムも進化を遂げ、ウイズコロナ時代の居住の在り方が提案されています。
取材協力・監修
住まいと福祉研究所
株式会社やくも
所長 沖田清さん(一級建築士)
マンション大規模修繕工事
■築30年以上で大規模修繕工事
マンションでは通常12~15年ごとに建物に対する修繕工事が行われていますが、築30年頃には建物に加えて設備面も含めた大規模改修工事が必要となります。建物に含まれるのは、外壁や屋上、共用廊下、雨どい、窓、玄関ドアなど主にマンションの外側部分。設備には、給排水管やエレベーターなどの内側部分が含まれます。
マンションごとに長期修繕計画が立てられているものの、建物への計画のみで設備への修繕資金が不足していることも多々。放っておくと、思わぬ事故やマンションの価値低下につながります。設備への資金がきちんと積立られているのか、今一度確認してみましょう。
■マンション管理は経営的観点を大切に
マンションを維持管理していくためには、経営的観点を持つことが大切です。会社を経営するためには、「ヒト・モノ・カネ」が必要ですが、マンションの場合は「役員・建物・管理費、修繕積立金」がそれに当たります。このため、マンションの管理組合役員には、長期修繕計画を、将来を見越して精査していくことが求められます。役員でなくとも集会などが開催される場合は積極的に参加するなど、修繕工事を自分事としてとらえることが大切です。
また、長期修繕計画による予算が立てられていても、物価や工事費の上昇などから実際に必要な金額と合っていないことも。このため5年に1度は計画の見直しが必要。予算が不足している場合は、通常は12~15年ごとの建物部分の修繕周期を建物の劣化診断の結果が良ければ18年周期に延長することや、それが不可能ならば積立金を増やし対応する必要があります。
■未来に残すために長寿命化策を
老朽化したマンションの今後を考える場合、「建て替え」が頭に浮かぶことも。ですが、これまで福岡県内で建て替えが実施されたのは、わずか7棟のみ。建て替えには莫大な費用や、住民の8割の合意など諸条件が複雑なため現実的ではありません。マンションはきちんと維持管理すれば100年は保つと言われており、建物の長寿命化策に目を向けることが大切です。
「自分はもう年だから、マンションも大掛かりな改修はしなくてもいい」と思いがちですが、マンションの価値を高めることは自分の資産を高めること。相続人がいる人はもちろんですが、誰にも継がないという人こそマンションの資産価値を高める必要があります。例えば自力での生活が困難になった場合、自宅を売却し施設等へ移ることが想定されますが、その際にいくらで売却できるかどうかはマンションの状態に左右されます。また、賃貸に出す場合も借り手がつくかどうかは、売却時と同様にマンションの状態によります。
また、大規模修繕工事の際は現状維持を目指すだけではなく、時代に応じた設備の改修も物件価値を高めていくことにつながります。
■大規模修繕工事 成功のポイント
①管理組合の意識UP
受動的にマンション管理を考えるのではなく、経営的感覚で主体的に取り組む。
②大規模修繕工事の計画、資金計画の見直し
③建物の現状確認
どの部分をどの程度改修するのか、業者任せにならないよう現状の確認をする。
④修繕委員会の早期立ち上げ
通常の輪番制で回ってくる管理組合の理事だけでは対応できないことも。
プロジェクトとして委員会の立ち上げを行う。
取材協力・監修
NPO法人 福岡マンション管理組合連合会
理事長 畑島義昭さん
(マンション管理士・管理業務主任者)