1985年福岡県生まれ。劇団ゴジゲン主宰、映画監督。2009年『ふたつのスピカ』(NHK)で同局最年少のドラマ脚本家デビュー。2012年、長編映画初監督作品『アフロ田中』が公開。『ワンダフルワールドエンド』でベルリン国際映画祭出品など数々の作品で注目を集め、ドラマ『バイプレイヤーズ』シリーズのメイン監督も務める。
初の小説執筆で家族と向き合う
福岡出身の映画監督であり、劇団ゴジゲン主宰の松居大悟さんが初の小説『またね家族』を著しました。描かれているのは、不器用な家族の姿です。
物語は、東京で小劇団を主宰する主人公・武志が、父の余命わずか3カ月と知らされることから始まります。いや応なく、家族と向き合わざるを得なくなった武志が、大嫌いな父や苦手な兄、影響を受けた母、そして恋人や劇団の仲間たちともがきながら進んでいく中で感じるものとは_。
小説を書いたきっかけを松居さんに伺いました。
「ずっと書きたいという思いはあったのですが、どうしても踏み切れなくて。でも去年、父親の七回忌を迎えたこと、自分のスケジュールが空いたこと、担当編集者さんが小説執筆を強く勧めてくれたことが重なり、書きだしました。大人数が関わる舞台や映画と違って、小説は自分と編集者だけで作り上げるので、すごく掘り下げられるような気がします。これまで考えないように避けてきた父親や家族って自分にとって何だったんだろうとか、生きることや死ぬこと、会えなくなること、会えなくても頭の中で生き続けることとか。そんなことを考えながら書きました」
これまでふたをしてきた気持ちを書き表して
『またね家族』には、武志の心情が繊細に描き出されており、読み手は知らず知らずのうちに自分の内側をのぞき込むことに。つい見えを張ってしまう情けなさ、周りの空気に合わせてしまい本音をしまい込む葛藤…。多くの人が抱く弱い部分が描き出されていることで、一層物語に引き込まれていきます。
「弱いところとか、かっこ悪いところを描こうと思ったことはなくて。でも、だからこそ客観的に見たら、かっこ悪いところもいっぱい出ているのかもしれないですね。人や家族に対して、『こうあるべき形』にとらわれないように、今までふたをしてきた気持ちを書こうと思いました」
作中には、大濠公園など福岡の人には馴染み深い場所も度々登場。身近な場所が、印象深いシーンの舞台として描かれているのは感慨深いものです。しかも、小説でありながらクリアな映像を見ているような表現力。読後は、映画を観終わったときのようにラストシーンの残像が心にとどまります。
「舞台や映画といった視覚的な世界を作ってきたので、無意識に頭の中で画角を描きながら書いている感じはありますね。ここはちょっと広い絵で見せようとか、どれくらいの声が届く距離感なのかとか。ラストシーンは、早い段階で完全にビジュアルが出来ていて絶対にそれで終わらせようと思っていました」
どんな情景で幕を下ろすのか、それは読んでからのお楽しみに。
小説『またね家族』
■著者:松居大悟
■発行所:株式会社講談社
■定価:1,650円(税別)
山﨑智子=文
text:Tomoko Yamasaki