料理も、会話も、「間(ま)」が大事と再確認
Ⓒ 2020映画「みをつくし料理帖」製作委員会
映画『みをつく料理帖』
■製作・監督:角川春樹
■出演:松本穂香、奈緒、若村麻由美、浅野温子、窪塚洋介、小関裕太、藤井隆 他
■配給:東映
◎10月16日(金)より
T・ジョイ博多、ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13 他にて公開
歳をとったせいでしょうか、テレビをみても、音楽を聴いても、その喋りの速さ、歌詞の詰め込みすぎと思えるほどの歌唱に、いささかフラストレーションが溜まっている私。言葉、会話を生業にしていた昭和の女子アナだった私の悪い癖なのかも知れません。
今月ご紹介する映画『みをつくし料理帖』は、そんな思いを払拭させられる作品でした。私が若い頃、衝撃を受けた角川春樹さんの監督として最後の作品とのことで、どんな演出で臨まれるのか期待で胸がいっぱいでした。
すでにテレビでは、民放で北川景子さん、NHKで黒木華さんがそれぞれ主役としてドラマ化放送されていた作品。本作では映画としてのクオリティと、まだまだ若手の松本穂香さんを監督はどのように演出していかれるのか、その興味もありました。穂香さんは見事に監督の期待に応えたのではないかと思います。
原作は、作家髙田郁氏のベストセラー時代小説。時代は享和2年の大坂。身分は違えども姉妹のように仲良しだった澪(みお)と野江(のえ)。「何があってもずっと一緒や」と誓った二人でありましたが、大坂大洪水で離ればなれに。
澪は子供の頃から本物の味を見極める天性のものを持っていて、江戸の蕎麦処「つる家」の女料理人に、野江は吉原の遊郭で、まぼろしの花魁・あさひ大夫となり、お互いの存在は確認できない状態。澪は、一流の女料理人を目指し、試行錯誤を繰り返します。そんな彼女を応援する人々との関わりが時に温かく、時に辛辣に。とは言え、トラブルに見舞われることも。
一方で、彼女に好意を寄せているのではという二人の男性も。彼らの所作は実に奥ゆかしく当時の男性の品性を感じさせます。台詞の間はゆったりとしていて心地よく、観ている私はその間に台詞を入れ込みたくなります。
素材を生かした料理の数々、友情、愛情、人情がゆっくりとした間の中で、展開していきます。まな板の上で素材を刻む心地よい音、時間をかけ調理し、素朴な器に盛りつけられる料理。江戸時代の方が贅沢な食生活だったのかな、と思った次第です。
野江役の福岡出身、奈緒さんも美しさの中に凛としたものを感じさせます。多くの著名な俳優さんが登場。角川春樹監督最後の作品への畏敬の念でしょうか。
佐久間みな子
KBCアナウンサーからKBCシネマにも携わり、現在はフリーアナウンサーへ。会話塾の講師を務める他、コミュニティラジオ天神のパーソナリティとして活躍中。