近年、「家族信託」と呼ばれる財産の管理方法が注目を集めています。背景にあるのが「高齢化」の進展と「認知症」の増加です。家族信託とは、高齢者らが財産を管理できなくなったときのために、自分の財産を管理する権限を家族に与えておくものです。認知症が進んでしまうと、出金などがスムーズにできなくなる恐れがあり、子どもでも親のお金を下ろせなくなる事態が発生します。そうならないためにも、認知症に備えた事前の対策が不可欠です。今月はこの「家族信託」の基礎について学びましょう。
2025年には5人に1人が認知症に
内閣府の平成29年(2017年)版高齢社会白書によると、2012年は認知症患者数が約460万人、65歳以上の高齢者人口の15%という割合だったものが、2025年には5人に1人、20%が認知症になるという推計が出ています
■認知症高齢者の将来推計
65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症になると推定されています。(括弧内は65歳以上人口対比)
※「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成26年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業九州大学 二宮教授)を元に推計
■平均寿命と健康寿命(令和元年)
支援や介護を必要とするなど、健康上の問題で日常生活に制限のある期間が平均で9〜12年あるとされています。
※出典「令和5年版高齢社会白書:内閣府」
通帳の保管場所を忘れてしまったら、どうなる? 認知症になる前の「転ばぬ先の杖」
財成高利の母、慎子(82)は最近、物忘れが多くなり、日常生活に不安を感じています。慎子は久しぶりに実家を訪れた高利(60)に相談を持ちかけました。
お袋、顔色が良くないけど、何かあった?
お友達が預金通帳の保管場所が分からなくなって大変な目に遭ったのよ。
大変って、どんなこと?
入院費を引き出せなくなり、支払いが滞ったのよ。離れて暮らす娘さんが立て替えしてくれたみたい。娘さんが家を探したら、預金通帳が7冊も出てきたそうよ。
友人は認知症だったの?
ええ。私もそうなったら、どうしよう。
そうなってからじゃ遅いよね。以前、子どもが親の財産を管理する「家族信託」という仕組みがあると聞いた。白浜さん、教えてください。
■白浜FPのアドバイス 家族信託、その仕組みとは?
制度を担う人は「委託者」「受託者」「受益者」の3者です
■「委託者」は、財産の元々の所有者で財産を信託する人
■「受託者」は、財産の管理、運用、処分を任される人
■「受益者」は、財産権を持ち、財産から利益を受ける人
家族信託では、親のために子が財産を管理し、利益は所有者である親が得るなど、委託者と受益者が同じになる事例がほとんどですね。
家族信託を活用する時に、最も注意しなければならないことは委託者も受託者も判断能力が求められることです。すなわちどちらかが認知症と判断され、判断能力がないとなると、この仕組みは使えません。
祖父母や両親などが将来、認知症になった時に備える「転ばぬ先の杖」となるのが家族信託なのです。
■財成家に当てはめると…
「成年後見制度」との違いは? 柔軟な財産管理できるが親の施設の入居契約はできない
■白浜FPのアドバイス 成年後見制度よりも柔軟な財産管理ができる家族信託
認知症などで判断能力がなくなったら、成年後見制度を利用して後見人に「全財産の管理」や「身上保護」をしてもらうことができます。後見人は、家庭裁判所によって決定されますが、弁護士などの専門家が選ばれることが多く、毎月報酬を支払うのが特徴です。
一方、家族信託は、家族などの信頼できる人に「指定する財産の管理」を託します。家族間で完結することや、月々のコストが掛からないこと、本人死亡後に、残りの財産を誰に渡すかを指示できるため、遺言の機能を持たせることも可能です。しかし、身上保護権がないため施設の入居契約などができない場合があることは知っておきましょう。
家族信託は、認知症などで判断能力が無くなると手続きができません。気になる人は早めに検討しましょう。
NCBシニアサポート信託
西日本シティ銀行:認知症や寝たきりなどの生前のリスクに備え、安心して財産管理を行うことができます。
お金のことは、お近くの西日本シティ銀行の窓口へお気軽にお尋ねください。
イラスト
まき りえこ
福岡市在住の漫画家・コミックエッセイスト
近著に「子どもをネットにさらすのは罪ですか?」
白浜 仁子(しらはま ともこ)
fpフェアリンク株式会社代表取締役
福岡市中央区今泉2丁目1-35 アプリーレ今泉703
TEL 092-753-9828