撮影:門嶋淳矢
対照的な演目で魅せる親子共演
「母が福岡出身なので、第二の故郷のようなところです」
福岡についての思いを語る幸四郎さんは、3年ぶりの博多座登場。そして、息子の市川染五郎さんは博多座初出演です。演目は、緊迫感のある「江戸宵闇妖鉤爪(えどのやみあやしのかぎづめ)」、笑いに包まれる「鵜の殿様」。対照的とも言える二演目で博多座では初めてとなる親子共演で観客を魅了します。
父から息子へ継承する乱歩歌舞伎
「江戸宵闇妖鉤爪」は江戸川乱歩原作の「人間豹(にんげんひょう)」を元にした作品で、2008年に初演。幸四郎さん(当時染五郎)が発案し、父・松本白鸚(はくおう)さん(当時幸四郎)が演出を手掛けました。衣裳(いしょう)やかつらも白鸚さんが描いたスケッチが元になっています。
「今は年に数本の新作歌舞伎が出てくる時代になりましたが、当時は違いました。『江戸川乱歩』の作品には、歌舞伎には必要不可欠な艶やかな美しさが共通していたこともあり、モダンな歌舞伎ができないか考え、およそ10年の歳月をかけ、作り上げていった特別な思いのある演目です」
初演で幸四郎さんが演じた人間豹・恩田乱学を今回は染五郎さんが演じます。
「私が演じていたものを染五郎が、父が演じた明智小五郎を私が演じることに感慨深さがあります。恩田の不可思議な動きや早替り、大凧を使った宙乗りなど見せ場も多いので、染五郎には私とは違う新たな恩田で驚かせてほしいと思っています。そして私が演じる明智は、恩田を捕まえることを目指しながらも警察のような国家権力とは違う私立探偵のような立場で、わかりやすい善ではない、歌舞伎では珍しい人物像。恩田を追っている間に次第に彼にのめりこんでいく過程を父とは違ったアプローチでお見せできると思います。大阪松竹座での公演から13年経ち、当時なかった技術を盛り込み進化した演出もみどころです」
幕末の混沌とした時代に女性たちを次々と狙う恩田と明智との戦い。和太鼓を軸にテンポのある音楽と影を伴う照明が乱歩歌舞伎の世界観を際立たせていきます。
歌舞伎公演では初演舞踊劇「鵜の殿様」
鵜飼いを知らない大名に、家来の太郎冠者が教えながら言葉巧みに大名を操ってしまう「鵜の殿様」。太郎冠者を幸四郎さん、大名を染五郎さんが演じます。
「会話で進んでいく分かりやすい舞踊劇です。華やかで賑やかな笑いに包まれる作品で、音楽や衣裳でも楽しんでいただけると思います」
博多座25周年 最初の歌舞伎公演
2024年に25周年を迎える博多座。記念すべき年の最初の歌舞伎公演に意気込みを語ってくれました。
「博多座という私にとって特別な場所で、思い入れのある作品を再演できることがうれしいです。染五郎とともに、自分たちの持っているものを全て発揮したいと思います。そしてお客様には、笑ったりハラハラしたり、生の舞台でしか味わえない感覚を存分に楽しんでいただければと思います」