科学技術が生み出した近代工芸の美 キーワードは“自然”&ジャポニスム
近代芸術は19世紀末のヨーロッパで花開きました。アール・ヌーヴォーとはフランス語で“新しい芸術”の意味です。表現の対象は、絵画や彫刻だけでなく宝飾品や家具調度、グラフィックアートと市民生活全般に及びました。そのひとつ、ガラス工芸の分野で先駆者となったのが、フランスのエミール・ガレとドーム兄弟です。
ポスターにも使われている左上の写真のガラス鉢は、ガレ制作の『菊にカマキリ文月光色鉢(もんげっこうしょくばち)』です。鉢本体の月の光をイメージした淡青色の透明なガラスは、1878年のパリ万博でガレが初めて発表しました。カマキリは、表面にガラスの粉末を混ぜた顔料を焼き付ける技法で描かれています。ガレは昆虫や植物を観察してデッサンして、作品に取り入れました。こうした自然に学ぶ姿勢が、新たな美の創造へと導きました。
その隣、こちらも生物がテーマのドーム兄弟の『花瓶《蜘蛛に刺草》』です。高さ47センチの細長い瓶に、トゲに触れると痛みを感じる刺草と蜘蛛という、いわば“嫌われモノ”をデザインしています。蜘蛛は色ガラスを張り付けて、グラインダーで削る技法で表現されています。
ガラス工芸発展のきっかけは、19世紀半ばに透明なガラスが大量生産されるようになってからです。更に、加工に重要な温度の測定やグラインダーなどの工具といった技術の発達が、造形の可能性を広げました。
日本の影響も見逃せません。印象派の絵画に象徴されるジャポニスムは、様々なジャンルに及びました。ガレの『伊万里風縁飾蓋物』は、かつて伊万里港からヨーロッパに輸出された金襴手の磁器を彷彿とさせます。会場では有田焼の皿や鉢と一緒に展示されますので、是非見比べてください。
九州国立博物館で、ガラス工芸をテーマにした展覧会が開かれるのは今回が初めてです。折しも新緑の季節、木立に囲まれた博物館で、自然味溢れるガラスの芸術をご堪能ください。
菊にカマキリ文月光色鉢
エミール・ガレ 1884-1889年
北澤美術館
花瓶《蜘蛛に刺草》
ドーム兄弟 1910年頃
北澤美術館
伊万里風縁飾蓋物
エミール・ガレ 1884-1889年
北澤美術館
繁竹治顕
元NHK記者。’93年全米オープンゴルフ、’94年リレハンメル冬季五輪、2000年シドニー五輪などを取材。福岡放送局広報事業部長、副局長。現在、九州国立博物館振興財団専務理事。
福岡近郊博物館・美術館のスケジュール
※( )内の料金は、特別・前売り・団体料金、詳細はお問合せください
■九州国立博物館
特別展 アール・ヌーヴォーのガラス ガレとドームの自然賛歌
4月18日(火)~6月11日(日)
●一 般…1,700円(1,500円)
●高大生…1,000円(800円)
●小中生…600円(400円)
休館日/月曜(5月1日(月)は開館)
☎050・5542・8600(ハローダイヤル)
■福岡市博物館
特別展「驚異と怪異――想像界の生きものたち」
悪魔仮面(メキシコ)
国立民族学博物館蔵
撮影:大道雪代
~5月14日(日)
●一 般…1,600円
●中高生…1,200円
●小学生…800円
休館日:月曜
☎「驚異と怪異」福岡展事務局 092・711・5491
■久留米市美術館
リアル(写実)のゆくえ 現代の作家たち 生きること、写すこと
橋本雅也《アヤメ》2019年 個人蔵
~4月2日(日)
●一 般…1,000円(800円)
●65歳以上…700円(500円)
●大学生…500円(300円)
●高校生以下…無料
休館日/月曜(ただし祝日・振替休日の場合は開館)☎0942・39・1131
■筑前町立大刀洗平和記念館
マンガとモノが語る シベリア抑留Ⅱ
~4月23日(日)
●一 般…600円(500円)
●高校生…500円(400円)
●小中生…400円(300円)
休館日/12月26日〜31日
☎0946・23・1227
■ゼンリンミュージアム
企画展 17世紀の日蘭交流 選ばれし国 おらんだ
~5月14日(日)
●一 般…1,000円(800円)
※保護者同伴の小学生以下は無料
休館日/月曜(ただし祝日の場合は開館し、翌平日が休館)
☎093・592・9082
●新型コロナウィルス感染拡大防止のため、休館・展覧会が中止・延期される場合があります。お出かけ前に各施設のホームページなどで確認してください。