柔らかな光を放つ星々や月…。夜空を見上げる時間は、忙しい日々の中であっても心癒やされるひとときです。特に冬は肉眼でも確認できるような明るい星が多く、天体観察に適した季節とされています。星や月のことを知れば、そんな時間がもっと楽しいものになるはず。
今回は冬の夜空を楽しむコツを紹介します。
天体 “観望”? “観察”? “観測”?
「星や月を見ること」を表す言葉には、「天体観望」「天体観察」「天体観測」があります。同じような言葉に思えますが、実はそれぞれ異なる定義を持つ言葉です。
これまで「天体観望」だったという人も、この冬からは「天体観察」を楽しんでみませんか。
◎天体観望…星や月をただ眺めるだけのこと。
◎天体観察…星や月を注意深く見ること。
その変化を見ること。
◎天体観測…天体望遠鏡などを使い、学術的に星や
月を見ること。
天体観察をするコツ
天体望遠鏡がなくても、ちょっとしたコツをつかむだけで天体観察を十分に楽しむことができます。
❶月明かりが少ない日を選ぶ
星を観察するときは、新月の10日前~新月の3日後ぐらいまでの比較的月明かりが少ないタイミングがおすすめです。想像以上に月は明るく、満月周辺のタイミングでは星が見えづらくなります。
❷光が直接当たらない場所で
街灯や月明かりが直接当たる場所では、明るさに目が慣れて星を見つけにくくなります。ベランダの場合は部屋の電気を消して、手やノートなどで外の明かりを遮るだけでも効果がありますよ。
❸昼間のうちに確認をすます
できれば明るい昼間のうちに、その日観察する星の方角を星座早見表や星座アプリなどで確認しておきましょう。また、暗闇の中で転んだりしないように、観察場所やそこに行くまでの安全確認もお忘れなく。
❹防寒対策をする
観察時はほとんど体を動かさないため、冷えを感じやすくなります。散歩などのときよりも防寒対策はしっかりと。厚着をしたり、カイロを用意したりして工夫しましょう。また、体調が悪いときは無理をしないことが鉄則です。
❺暗闇に目を慣らす
暗闇に目を慣らす(暗順応させる)ことで、それまで気づかなかった小さな光の星も見えるようになります。年齢を重ねるほど暗順応に時間がかかるため、10分以上は目を慣らす時間を設けることをおすすめします。
月を知ってもっと親しむ
もっとも身近な星である月。ですが、知らないこともまだまだたくさん。
月のことを知れば、見上げるたび、楽しみが増えもっと親しみを感じるのではないでしょうか。
■旧暦と月の満ち欠け
一カ月の単位を「月」で表すように、旧暦が使われていたころまでは月の満ち欠けのリズムが暦そのものでもありました。このため、旧暦の日付と月の満ち欠けを見比べると興味深いですよ。
●旧暦1日
ついたち=月立つ日、月が始まる日。つまり新月の日
●旧暦3日
三日月=三日目の月(新月から3日経ったばかりの細長い月)
●旧暦15日
満月の日。旧暦では毎月15日がほぼ満月となります。
●旧暦16日
満月の翌日。満月の日よりも、月が出る時間が少し遅くなるため、「月がためらっている(いざよう)日」という意味で十六夜(いざよい)と呼ばれます。
●旧暦17日以降
17日は16日よりもさらに月が出る時間が遅くなるため、「立って待つ月」=「立待(たちまち)月」と呼ばれます。18日は「居待(いまち)月」=「居て(座って)待つ月」、19日は「臥待(ふしまち)月」=「寝て待つ月」と呼ばれるように、月が出る時刻が遅くなっていることを表しています。20日以降の月は朝方の空にも残っているため、「有明の月」とも言われます。
国によって違う月の柄
月はいつも同じ面を向けて地球の周りを公転しているため、地球に住んでいる私たちが見る月の模様はいつも同じ模様です。
日本では「ウサギが餅つきをしている様子」に例えることが多いですが、国によって例え方はさまざまです。いつもとは違う見方で楽しむと、見慣れた月も新鮮に感じるのではないでしょうか。
日本
餅をつくウサギ
カナダインディアン
バケツを運ぶ少女
北ヨーロッパ
本を読むおばあさん
■見える大きさが変わる?
月を年間通して観測すると、例えば同じ満月であっても大きくなったり小さくなったり大きさが変化しています。これは月の軌道により、地球との距離が変動しているためです。月と地球の距離は最も近いときが約35万キロで、最も遠いときが約41万キロ。この約6万キロの距離の差により大きさが異なって見えるのです。さらに、距離が近いときは通常よりも明るくなるため、同じ形の月同士の場合、一層大きく見えるかもしれません。
また同じ1日の中でも月との距離は変わります。月が頭上(真上)にあるときが最も距離が短く、月が地平線近くにあるときよりも平均距離で約6,400キロ(=地球の半径の長さ)短くなります。ですが、この距離の差では見た目の大きさはほぼ変わらず、さらに地平線近くの月は大気による屈折でゆがんで見えることもあり、大きさの違いは感じにくくなっています。
■〇〇ムーンって何?
「スーパームーン」など、「〇〇ムーン」という言葉をよく耳にしませんか? 実はこの呼び名は天文学の用語ではないため、明確な定義はありません。
一般的に「スーパームーン」とは、月と地球の距離の関係で1年の中で最も大きく見える満月のことを指し、反対に最も小さく見える満月のことを「ミニマム(マイクロ)ムーン」と呼びます。
近頃はネイティブアメリカンの農業暦で使用する満月の呼び名もよく紹介されるようになっています。
2023年のスーパームーン 8月31日(木)
2023年のミニマム(マイクロ)ムーン 2月6日(月)
2~4月:ネイティブアメリカンの満月の呼び名
2月6日(月) スノームーン(雪の月/雪が降る時期の月)
3月7日(火) ワームムーン(芋虫月/雪がとけて芋虫が出て
くる時期の月)
4月6日(木) ピンクムーン
(桃色月/桃色の花が咲く時期の月)
プラネタリウム活用法
「実際の夜空ではやっぱり分からない」。そんなときは各地にあるプラネタリウムを利用しましょう。多くのプラネタリウムでは、その日の夜空の様子を分かりやすく解説してくれます。プラネタリウムで予習をしておくと、実際の天体観察でも星を見分けやすくなりますよ。
また、天候に関係なく楽しめるので、雨が続くときなどにも星を楽しめることもメリットです。
冬の代表的な星を見つけよう 冬の代表的な星を見つけよう
星の中でも特に明るい1等星以上の代表的な星なら、肉眼でも簡単に見つけられます。
一番見つけやすいオリオン座を基準にして、他の星を探すと見つけやすいですよ。
星座表は、見上げたときの空の方角に合わせているため、東西の表記が、見下ろして使う普通の地図とは反対になっています。
南向きに立って、空にかざして使うと分かりやすいですよ。
■Step1 オリオン座を見つける
まず少し右上がりの横一列に3つ並んだ「三つ星」を見つけましょう。それがオリオン座の中心です。その周りを鼓のような形で囲む星々でオリオン座を構成しています。オリオン座の左上の星がベテルギウス、右下の星がリゲルで共に1等星です。1~2月は21時ごろに真南の空高い位置に見え、時刻が進むにつれ少しずつ西へ移動していきます。
■step2 オリオン座から代表的な 冬の星を探す
❶ シリウス(おおいぬ座)
オリオン座の三ツ星をつないだ線を左下に伸ばした場所
❷ プロキオン(こいぬ座)
オリオン座の上2つの星をつなぎ、弧を描くように左に伸ばした場所
❸ アルデバラン(おうし座)
オリオン座の三ツ星をつないだ線を右上に伸ばした場所
❹ ポルックス(ふたご座)
オリオン座の右下リゲルと左上ベテルギウスをつないだ線を左上に伸ばした場所
❺ カペラ(ぎょしゃ座)
三ツ星の中心の星から線を上に伸ばした場所
■「宵の明星」と木星が 大接近
月の次に明るく見える星。それが金星です。夕方から見える金星は「一番星」や「宵の明星」と呼ばれ、明け方に見える金星は「明けの明星」と呼ばれます。約10カ月おきに宵の明星と明けの明星は繰り返され、この冬は宵の明星を観察することができます。日没後、西の空で最も明るく輝いている星が金星です。
さらに3月2日には金星と木星が大接近して見える天体ショーがありますので、注目を。
■見ると長生きできる? 長寿星「カノープス」
冬の空で赤く輝く「カノープス」が見られます。「赤」=「おめでたい」ことを連想させ、古来より「この星を見ると長生きできる」と言われ長寿星とも呼ばれています。
南側の地平線近くの低い場所で見られるため、南側に山や建物があると見えません。南側が開けた場所に行った際はぜひカノープスを見つけてみてください。
※緯度の問題から東北以北ではカノープスは見えません。
●カノープスが見やすい時間
1月20日ごろ…21時45分〜23時45分ごろ
2月20日ごろ…19時40分〜21時40分ごろ
見やすい時間帯は1日に約4分ずつ早まります。
■今年の冬は 「三角形」がポイント!
冬の夜空には1等星以上の星をつないだ「冬の大三角」が見られます。
さらに、この冬は火星を含めた3つの赤い星を結んだ「赤のトライアングル」も登場! 火星の公転周期の関係で来年の冬には見られない貴重な三角形です。
◎冬の大三角…ベテルギウス、シリウス、プロキオンを結んだ三角形
◎赤のトライアングル…火星、アルデバラン、ベテルギウスを結んだ三角形
取材協力
福岡市科学館
ドームシアター(プラネタリウム)
学芸員 丹野佳代子さん