『ミス・サイゴン』が思い出深い博多で上演
ミュージカル『ミス・サイゴン』
公演期間/10月21日(金)~31日(月)
公演場所/博多座(福岡市博多区下川端町2-1)
写真提供/東宝演劇部
日本のミュージカル界をけん引し続けてきた市村正親さんの代名詞とも言えるミュージカル『ミス・サイゴン』が10月に博多座で上演されます。
ベトナム戦争末期を背景として時代に翻弄(ほんろう)されながらも強く生きようとする人々を描いた作品で、市村さんが演じているのは、エンジニアという名の野心あふれるキャバレー経営者です。物語の狂言回しの役割も担うキーパーソンで、日本初演以来30年間演じ続けています。
「初演のときは、44歳のときで脂ののったいい役者だったと思います(笑)。そのときと、今とでは明らかに違う演技になると思います。70歳を過ぎた市村正親がどんな役を生きているのか、お客様に楽しみにしていただきたいですね」
30年間で印象深いこととして、市村さんは真っ先に博多座上演のエピソードをあげました。『ミス・サイゴン』は当初、実物大のヘリコプターが登場するなど舞台装置の大きさから東京の帝国劇場でしか上演できなかった作品でした。博多座は、そんな『ミス・サイゴン』の上演ができるよう設計された劇場だったのです。
「帝国劇場での初演は約1年半におよぶロングランで再演もありましたが、他の劇場ではずっと上演できずにいました。それが14年ほど前に、帝国劇場だけでなく博多座でも上演すると決まったときは、口から心臓が飛び出すかと思うくらいうれしかったですね」
厳しい状況の中でどう生きるかを伝える
物語の舞台となるのは、陥落寸前の旧サイゴン(現在のホーチミン市)。エンジニアが経営するキャバレーで働いていたベトナム人少女キムは米国兵クリスと恋に落ちます。しかし陥落の混乱で2人は離れ離れに。数年後、クリスはキムが自分の子であるタムを育てていることを知り、現地に向かいます。一方、キムはタムの幸せのためにある決断を下して…。
『ミス・サイゴン』の見どころを、市村さんに伺いました。
「市村のエンジニア役でしょう(笑)。あとはキムの生き様です。彼女の子どもに対するかけがえのない愛ですよね。厳しい状況の中で人間がどう生きていくべきかということを描いています。キムは息子を通しての『生』ですが、エンジニアはとにかく自分が生き延びてやるという気持ちで生きている。これは相反することではなくて、その両面を見ることでお客様に生きるとはどういうことなのかを感じとってもらえたらと思います」
市村さんはあらためて『ミス・サイゴン』のことを「本当にいい作品です」と言葉を続けました。
「命や生きることを伝えています。最近、世界に危ない雰囲気が漂っています。だからこそ、舞台上で繰り広げられる戦争とその悲劇を、今見にきていただきたいと思います」
見終わった後に何を感じるのか。今の世に照らし合わせて考えたい作品です。
山﨑智子=文
text:Tomoko Yamasaki