初夏は外に出ることや、自然を見ることが楽しくなる季節。
出かけた先で出会った心に残る風景を俳句に詠んでみませんか?
俳句を詠めば変わる世界の見え方
今は草木がひときわ瑞々しく輝く季節。美しい景色を目にすると、写真を撮りたくなりますが、今年からはその景色を俳句に詠んでみませんか。心を動かされたものを主題として詠めば、そのとき自分が何を感じたのか後から読み返しても鮮明に思い出すことができます。
また、句作するようになると、身の回りにある様々な物、事を観察するようになります。訪れた場所にどんな花が咲いているのか、雲はどのように流れているのか、人々はどのように過ごしているのか…。同じ場所であっても、つぼみが膨らんできた、など些細な変化にも気づくことができ、日々新鮮な気持ちで過ごすことができます。
また、季語を使ううちに四季や文化など季節の風物詩に目を向けるように。これも俳句を詠むことで起こる変化の一つです。季語には、「キャンプ」や「サングラス」など身近な言葉もたくさん。時代に合わせて新しい季語が増えていますので、俳句をより身近なものに感じることができるのではないでしょうか。
難しく考えなくても大丈夫。次のページからは決まりごとや作り方などを紹介します。さぁ、心のシャッターを切るように、俳句を楽しみましょう。
俳句を詠む
■決まりごと
守らなければいけないことは2つだけ。
覚えるのも簡単です。
その一 17音で構成すること
定型は五七五のリズム。定型のリズムを崩した五五七、七五五で詠む破調もあります。しかし、慣れないうちに破調ばかりを詠んでいると、定型の句が苦手になったり、俳句らしさを表しづらくなることもあります。まずは、定型をしっかりと身につけませんか。
その二 季語を入れる
俳句とは四季の移り変わりや自然の美しさを大切にした、日本の美学が生み出したものです。このため、季節を表す言葉「季語」を入れることが必須とされています。季語となる言葉は『歳時記』に掲載されています。俳句を詠まないときでも、『歳時記』を読んで、今の時期にどのような季語があるのか知ることも楽しいですよ。
■作りかた
どのように句作するのかは人それぞれですが、
ここでは初心者でも始めやすい詠み方を紹介します。
1. 出かけたときに、周囲を見渡す
俳句はいつでもどこでも作ることができます。自宅でも可能ですが、慣れないうちは自然を感じられる場所に出かけたときに題材を見つけるといいですよ。
2. 句の題材を見つける
心動かされたものを俳句の題材にしましょう。
(例) アジサイ
3. 2の題材と 掛け合わせる物を決める
掛け合わせる物は、2の題材の周囲にある物・事から選ぶと作りやすくなります。
(例) アジサイが咲いている石段、社殿
※2の題材が季語でない場合は、掛け合わせる物に季語を選んでください。
4. 2と3のものを組み合わせて 17音でまとめる
きれいにまとめられなくても大丈夫。2と3のものに動詞や「や」「かな」「けり」などの切れ字を組み合わせるなどして17文字にまとめましょう。
(例)あじさいを分け石段の社かな
5. 推敲する
①上の五音と、下の五音を入れ替えて詠み直す。どのように言葉を並べた方が、リズムがいいのか試してみましょう。
②短い文章のため、助詞(「て」「に」「を」「は」)の使い方が特に重要となります。正しい意味になっているか再確認を。
③『歳時記』を見て、季語の選び方が最適か確かめる。同じ意味合いのものでも、違う言葉がある場合も。
④季語が2つ以上ある「季重なり」になっていないか? その句の核となる季語は一つだけの方がバランスよくなります。
⑤切れ字は1つだけか? 文章を区切る意味合いのある切れ字は、1句につき1つまでにしましょう。例外もありますが、切れ字が多くなると言葉がバラバラになっている印象を与えてしまいます。
■正岡子規が伝える心得
かの俳人、正岡子規は俳句の入門書『俳諧大全』の中で、「俳句を自分のものとしたいのならば、思うまま俳句を作り、上手さを求めるな、下手さを隠すな、他人からの目を恥ずかしがるな」と伝えています。初心者が励まされる言葉ではないでしょうか。上手い下手は気にせず、とにかく詠んでみましょう。
※「俳句をものせんと思はば思ふままをものすべし。巧みを求むる莫れ。拙を蔽ふ莫れ。他人に恥かしがる莫れ。」
■カメラで撮影したように詠む
心情を俳句に詠むこともありますが、これは高度なテクニック。初心者はカメラで写真を撮るように、目で見た景色を詠む方が句作しやすいでしょう。
目の前にどのような風景が広がっているのかを表現しましょう。
夏の季語(5月5日~8月7日)
■夏の季語の中から一部を紹介します。 早速、夏の俳句を詠みましょう。
時候
○薄暑(はくしょ)
少し汗ばむ程度の初夏の暑さ
○梅雨寒(つゆざむ)
梅雨どきの寒さ
○短夜(みじかよ)
日暮れから夜明けまでが短い夏の夜のこと
地理
○夏野
夏の日差しが降り注ぎ、
草が青々とおい茂っていること
○植田
田植えが終わったばかりの田んぼのこと
○滝
滝。涼しさを感じさせる夏の風景
天文
○雲の峰
高くそびえる積乱雲を山に例えて言ったもの
○南風(みなみ)
湿り気のある暖かい夏の季節風のこと
○遠雷
遠くで鳴っている雷のこと。
雷は一般的に夏の季語だが、「春雷」(春)、「稲妻」(秋)など例外もある
植物
○紫陽花
梅雨時期を代表する花
○青梅
青くて固い梅の実のこと。
「実梅」は黄色く色づいた梅の実
○パイナップル
熱帯の果物。
日本では7~9月に収穫されることが多い
動物
○雨蛙
梅雨時期の雨の日に激しく鳴く
○燕の子
燕の産卵期は5月初旬と、6月中旬~7月とされている
○蝉
夏の虫を代表する蝉。法師蝉(つくつくぼうし)は秋の季語
生活
○サングラス
雪山などで使用することもあるが、季語としては夏に限定
○ビール
1年中飲むビールだが、季語としては夏
○ナイター
プロ野球の夜試合。昼間とは違い、涼しい夜風が心地よい
行事
○父の日
6月第3日曜日
○山開き
その年初めて山に入ること。7月1日に行う山が多い
○博多祇園山笠
バリエーション(子季語)として山笠、追山笠などがある
■季語の辞書 『歳時記』
『歳時記』とは、季語とその説明や用例としての俳句が掲載されている、いわば季語の辞書ともいえる書籍です。普段耳にしない響きの名称なども多く載っており、ページをめくって読むだけでも楽しいものです。アプリや、『歳時記』をコンパクトにまとめた季寄(きよせ)もあります。
■季語クイズ
1. 夏の季語でないのはどれ?
①麦の秋
②蜻蛉(とんぼ)生(うま)る
③オクラ
④梅干
2. それぞれの季語の季節は何でしょうか。
①ハンカチ
②ラグビー
③朝寝
④枝豆
■取材・監修
藤山凡忠さん
弊誌『おとなの風物詩』コーナーの俳句を
長年にわたり監修。俳句歴25年。
公益社団法人俳人協会、福岡蕗句会、那の津会会員
※季語クイズ 1答え:③オクラ 2答え:①夏 ②冬 ③春 ④秋