「久屋」
福岡市南区大橋1-19-18
11:30~14:30、18:00~24:00(定休日は、日曜日、祝日の月曜日)
◎大江戸ラーメン750円 ◎醤油ラーメン650円 ◎醤油そば600円
煎り酒をご存じだろうか。江戸時代から伝わる調味料で、梅干しや鰹などを日本酒で煮詰めて作る。しかし、醤油に取って代わられ今ではあまり目にしなくなった。
『久屋』の看板メニュー「大江戸ラーメン」はその煎り酒を元だれとして使っている。鶏がら中心の清湯スープはあっさり。それでいて深みがあるのは煎り酒ゆえだろうか。トッピングの梅の酸味もいいアクセント。キクラゲの食感も楽しい。
派手さはないが沁みる。そんな一杯のルーツはネーミング通り東京にあった。
店主の中村泰久さん(40)は福岡県高田町(現みやま市)出身。知人家族経営の地元ラーメン店『柳屋』の東京進出を機に20代前半で上京した。最初は系列の居酒屋、その後は豚骨ラーメン店で働いた。計6年ほど経験を積んだ頃、居酒屋の先輩にあたる料理人、藤枝博文さんの店に誘われた。
東京・世田谷にある『ひろの亭』。私も以前訪れたことがあるが、藤枝さんの手間暇かけたつまみとラーメンで人気の店だ。中村さんもメニュー、ラーメンの創作を手伝った。その頃、煎り酒を思いつき、生まれたのが大江戸ラーメンだった。「煎り酒は塩分も控えめでコクもでる」。評判は上々で看板の品になった。
「東京での独立を考えていたけれど、親の面倒を見るために福岡に戻ったんです」。中村さんは2011年に帰郷することになった。ただ、仕入れ先も知らない土地。独立は一旦先送りにし、薬院にあった人気店『元次』で4年間勤務した。豚骨ラーメンを作り、創作麺も手掛けた。
〝当店には豚骨ラーメンはございません〟。店の引き戸にはそんな言葉を掲げている。「福岡出身なので豚骨大好き。でも豚骨の店はあふれているし、味もいかにも豚骨になる」。15年8月のオープン時にアレンジが効く清湯スープを選択。大江戸ラーメンの提供を決めた。
ここ数年、醤油や鶏白湯などの非豚骨店が続々と誕生している。福岡イコール豚骨ラーメンという常識が覆されつつあるとも感じる。その時流に加え、居酒屋メニューのファンも多く、店はオープン以来根強い人気が続く。「食材によって変わるのが料理のおもしろさ。魚系もやりたいし、猪も使える。今は手一杯だけど、ゆくゆくは限定の創作麺をやりたいですね」。非豚骨だからこそできる。その可能性を今後も広げていくのだろう。
「大江戸ラーメンには『昔』という意味を込めています」と中村泰久さん
文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社文化部記者として文芸取材を担当。
麺好きが高じて「ラーメン記者、九州をすする!」を出版。