「中華そば ふくちゃん」
福岡市中央区清川2-1-34
11:00~15:00、18:00~23:00(土曜は25:00まで、日曜日は夜営業なし)。
30分前オーダーストップ。 定休日は月曜
◎中華そば650円 ◎支那そば650円
かつて福岡市中央区薬院に伝説の中華そば店があった。名前は『信兵衛』。多くのファンをとりこにしたが2000年に突如として姿を消した。あれから18年。元従業員の福田秀雄さん(44)が『中華そばふくちゃん』をオープンさせ、伝説の一杯を再現している。
信兵衛を開いたのは岡部信也さん。1957年創業の老舗『川端英ちゃんうどん』(今は閉店)の2代目であり、福田さんの叔父でもある。なぜうどん店主が中華そばなのかは今となっては分からない。ただ、福田さんは「2代目として親を超えたいとの思いがあったのでは」と推測する。
創業年も定かでないが、92年頃とみられる。その年の西日本新聞に岡部さんが登場する。当時、英ちゃんうどんは川端商店街と西鉄福岡駅の『味のタウン』に店を構えていたが、再開発で天神からの撤退を決め、信兵衛を開店したとの記事。「うどん出身だからか出汁感あるスープに手打ち麺。こんなラーメンがあるのかと衝撃だった」。そう語る福田さんは23歳の頃、信兵衛で働き始めた。
叔父としての岡部さんは大酒飲みで豪快。ただ、料理となると繊細だった。朝イチで麺生地を踏み、昆布は羅臼産など食材にもこだわった。ところが3年ほど勤めたある日、岡部さんは倒れてしまう。見舞いに行くと「継いでくれんか」と頼まれた。しかし、音楽で身を立てる夢があった福田さんは断って上京。岡部さんはそのままこの世を去り、信兵衛も人知れず暖簾を降ろした。「いつの間にかなくなった」とファンの間で信兵衛は伝説化していった。
「信兵衛の一杯がずっと頭にあった」。音楽の夢を諦めた福田さんは34歳で帰郷し、ラーメンの道へ進む。福岡市内の中華そば店に就職。2年前からは独立を考え、味の再現を試みるようになった。仕込みを手伝い、まかないで食べていた伝説の味。高級食材をふんだんに使っていた信兵衛に対し、福田さんは手に入りやすい食材で味を近づけていった。
そして完成した一杯。黄金色のスープにレアチャーシューが載る。私もかつて信兵衛のラーメンを食べたことがあるが、当時学生でほとんど覚えていない。今どきの見た目だが、福田さんは「当時からレアチャーシュー。違うのは麺と焦がしネギを入れていないくらい」と教えてくれた。
スープを一口すする。昆布や節系の出汁と豚鶏の動物系が絶妙なバランスだ。縮れ麺にもよくスープが絡む。
信兵衛ファンにとっては待望の一杯だろう。ただ、そうでない人も試してほしい。目の前の一杯で充分。歴史はアクセントにすぎない。そう感じさせてくれる味だから。
信兵衛と同じく、夜は居酒屋メニューもあります」と福田秀雄さん
文・写真 小川祥平
1977年生まれ。西日本新聞社文化部記者として文芸取材を担当。
麺好きが高じて「ラーメン記者、九州をすする!」を出版。