理念は「平和に奉仕する芸術」 フランス近代絵画の軌跡をたどる
大気汚染がフランス印象派生む?(西日本新聞2月1日付)数か月前、こんな研究論文が話題を呼びました。産業革命で、ばい煙が大量に排出され、汚染された大気でぼやけた風景を、写実的に描いたのが印象派だという指摘です。
その印象派の巨匠ルノワールの作品が、左に紹介する『詩人アリス・ヴァリエール=メルツバッハの肖像』です。リウマチで車いすでの生活を余儀なくされ、南フランスで療養生活を送っていた72歳の時に制作しました。描かれた依頼主女性の健康的で上品な美しさは、大都会の雑踏から抜け出した明るさが漂います。
対照的に重厚なのが、ユトリロの『ノートル=ダム』です。ゴシック建築を代表するパリの大聖堂は4年前の大火から修復作業が続いています。ユトリロは非嫡出子として祖母に育てられ、10代でアルコール依存症になりました。治療のために始めた絵が芸術家としての人生を切り開きます。 今回は母親で当時は数少ない女流画家だったシュザンヌ・ヴァラドンの「コントラバスを弾く女」も併せて鑑賞できます。
プチ・パレ美術館は工業用ゴムの製造で成功したチュニジア出身の実業家・オスカー・ゲーズが、1968年にスイスのジュネーヴに開設しました。ゲーズが亡くなった98年以降は休館状態となり、コレクションを貸し出しています。二度の世界大戦を経験したゲーズは「平和に奉仕する芸術」を理念として自らの審美眼に基づいてフランス絵画を収集しました。当時の画壇で評価が高くなかった画家にも目配りしています。
そんな画家の一人がアシール・ロージェです。紹介する『花瓶の花束』はパレットの上で絵具を混ぜるのではなく、原色を小さな点で並べる「点描」の技法で描かれています。色の三原色という科学知識が、絵画の世界にも入り込みました。
科学技術の発達は市民が自由な生活を享受できるようになる一方、大量殺りく兵器も生み出しました。芸術の意義を考える上でも、興味深い展覧会です。
オーギュスト・ルノワール
《詩人アリス・ヴァリエール=メルツバッハの肖像》 1913年
ASSOCIATION DES AMIS DU PETIT PALAIS, GENEVE
モーリス・ユトリロ 《ノートル=ダム》 1917年
ASSOCIATION DES AMIS DU PETIT PALAIS, GENEVE
アシール・ロージェ 《花瓶の花束》 1894年
ASSOCIATION DES AMIS DU PETIT PALAIS, GENEVE
繁竹治顕
元NHK記者。’93年全米オープンゴルフ、’94年リレハンメル冬季五輪、2000年シドニー五輪などを取材。福岡放送局広報事業部長、副局長。現在、九州国立博物館振興財団専務理事。
福岡近郊博物館・美術館のスケジュール
※( )内の料金は、特別・前売り・団体料金、詳細はお問合せください
■九州国立博物館
特別展 憧れの東洋陶磁-大阪市立東洋陶磁美術館の至宝
7月11日(火)~9月3日(日)
●一 般 1,700円(1,500円)
●高大生 1,300円(1,100円)
●小中生 900円(700円)
休館日/月曜日、7月18日(火)休館(ただし7月17日(月・祝)、8月14日(月)は開館)
☎050・5542・8600(ハローダイヤル)
■久留米市美術館
コレクションing4 野見山暁治の見た100年
野見山暁治
《これだけの一日》 2006年
久留米市美術館
~6月4日(日)
●一 般 700円(500円)
●65歳以上・大学生 400円(200円)
●高校生以下 無料
休館日:月曜(祝日の場合は翌平日)
☎0942・39・1131
■大野城心のふるさと館
開館5周年記念特別展「白木原ベース サイドストーリー ~街のなかのアメリカ文化、そしてPOP吉村伝説の誕生~」
~6月18日(日)
●一 般 300円(250円)
●高校生以下 無料
休館日/月曜(祝日の場合は翌平日)
( )内は、ここふる友の会会員、または20名以上の団体料金
☎092・558・5000
■北九州市立美術館 本館
スイス プチ・パレ美術館展ルノワール、ユトリロから藤田嗣治まで
~6月18日(日)
●一 般 1,500円(1,200円)
●高大生 1,000円(800円)
●小中生 800円(600円)
休館日/月曜
☎093・882・7777
■熊本県立美術館
細川コレクション 白隠と仙厓
~7月2日(日)
●一 般 210円(160円)
●大学生 130円(100円)
●高校生以下 無料
休館日/月曜
※会期中展示替えあり
☎096・352・2111